二昔

2010年12月12日(日)

20年間使われたベヒシュタインのメインテナンスをした。
納品された記念に、当時シュトゥットガルト音楽大学の学長だった、コンラート・リヒター教授のレクチャーコンサートがこのサロン/スカイハイ竹内(大田区)で行なわれた。

コンラート・リヒター教授は、東京芸術大学で教鞭をとる為、長く日本にも滞在していらっしゃったので、日本にも門下生は多い。
自分と教授との最初の接点は、たしか、このピアノが納品された2年前の88年に、東京芸術大学の第6講堂で、スタインウエイ、ベヒシュタイン、ベーゼンドルファーの比較演奏の講座だった。
日本ピアノ調律師協会が主催した催事だったが、ベヒシュタインを調律をする事になり、まだ、ドイツ語会話を習いたての自分には、いろんな意味で強烈な体験だった。

ピアノの種類とペダルの使い方の違い、という切り口からの “表現したい響きをピアニストが造る” という解説と演奏は、その頃から始まった、自分とベヒシュタインとの関わりのなかで、重要な位置づけになった。
当時、まだあまり知られていなかったベヒシュタインの響きを紹介する為に、解りやすい解説をされるリヒター先生が、このサロンのお披露目に、と依頼されるに至ったのだと思う。(納品当時は丁度ドイツで生活していた時で、詳細は直接知らない)

Konrad Richter auf C.Bechstein

そのレクチャーコンサートを皮切りに、20年間、童謡の作曲もされるオーナーの竹内さんの知り合いの演奏家を中心に、貸しサロンとしての他に、サロン主催のコンサートが年に数回のペースで行なわれた。

大切に使用されたピアノの状態も、さすがに20年という歳月の経過で、ハンマーの形状変化や回転部分の不具合が出てきた。今回、思い切ってアクション全体を工房に持ち出し、比較的大掛かりな調整作業を行った。

調整を終えピアノを鳴らすと、ふくよかな感じが蘇った事が指先からも伝わってきた。
20年経過する事で得られた肩の力が抜けた響きに、時間の経ったワインを飲んだ時のような“奥行き”を、調整を終えたピアノに感じる事ができた。

又、これからもしっかり頼むよ。
と、次なるエピソードに期待しながらサロンを後にした。

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