2010年10月9日(土)
ぐっと腹に響きが伝わってくるピアノに出会う事がある。
今週もそんなピアノに巡り会った。仕事で知り合った音楽番組プロデューサーのお宅でだった。
勿論、響きは鼓膜から音として認識されるのだが、優れたピアノの場合、鍵盤の振動、ペダルを踏む足など、全ての共鳴部分から、響きを色のように感じる事ができる。
そのピアノは、調律する僕に真っ正面から響きをぶつけてきた。
調律の後、かの武満が、まさにこのピアノで ”音楽に出会った” と言う説明を受けた。
中学生の武満徹が、ある日ピアノを弾かせて欲しいと音楽室にやってきたそうだ。
まだ、ピアノを弾くという事に全く未経験だった武満少年は、数個の音を ”鳴らした” 後、しばらく腕を組み考え込み、また、数個の音を鳴らし腕を組んで考え込む、と繰り返す、不思議な少年だったそうだ。
武満の心に、“何か”を描かせた響きのパワーは、単なる “音” ではなく、”五感を揺らす響き” だったのだ。それは、彼の創造の欲求に火をつけたわけだ。
目の前にあるピアノの響きと、その説明との一致に納得すると同時に、ドイツ・ブッパータールで以前出会った、製作者の祖先への敬意を感じた。
昔は、日本にもピアノ製作へのレスペクトがあった。そして、ある中学校で大切にされていたそのピアノは、音楽の新たな歴史を開ける引き金を引いたのだ。