勿体

2011年11月13日(日)

会場の係の方に案内され、ピアノの置かれているフロアーに入った。
丁寧にそして趣味良く造られた(修復された)建物そのものから放出されるエネルギーを感じ、ふともうかれこれ20年程前になるが、デュッセルドルフの日本総領事邸のピアノ調律に伺った時の事を思い出した。

Britisch Haus

昨日は、横浜のイギリス館で知り合いのピアノの先生の音楽会があった。休日を楽しむ人でにぎわう山下町の有名な公園の一角にある品の良いその洋館は、横浜市の指定文化財になっているようで一般の来場者も多いようだ。

Britisch Haus

建築は1937年に、イギリス総領事公邸としてされたようで、保存し、当時の様子を現代に伝える意味で意義も大きいと思う。

Britisch Haus

ただ、自分がこういう職業に携っているので尚更だろうが一点だけ気になった事は、ここに設置されているピアノは色んな意味でそのオーラーとどうにもミスマッチなのである。
決して置いてあるピアノが悪いのではない。
ただ、“この場所には合わない”のである。ここを指定文化財として保存している目的は何だろう?

当時、おそらく総領事の主催で、社交の場としてここでパーティーが行われた事もあったであろう。ご家族で音楽もしていらっしゃったかもしれない。そこには “当時のピアノ” があった筈だ。
その様子を伝えると言う意味では、ピアノも暖炉や電飾等の家の装飾同様、大きな要素になる事は間違いない筈だ。自分には、例えば真空管ラジオの代わりに、現代のデジタルシステムのステレオ装置が置いてあるのと同じくらいの違和感を感じた。

Britisch Haus

音楽会をこのような場所で行なえるようにオーガナイズされていると言う事は大変すばらしい事であるのは間違いない。
なので、こんな事を言うと、「そこ迄こだわらなくても、、、」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれないが、ピアノは外装のみならず、当時のヨーロッパのピアノが狙っていた響きは、現代の量産されるピアノのそれとは違うのだ。
コンクールや音大受験のような事が行なわれるならそれにふさわしいであろうピアノの選び方もある。が、この場所はそうではないだろう。
装飾的にも楽器の響きも、なるべく当時の雰囲気として、現代こういう場所で行なわれる音楽会を利用し感心をお持ちになる人に伝承する。という事ができればさぞ素敵だろうな、と思いながらの調律だった。

開場を使う音楽家も、文化伝承という趣旨に喜んで賛同してくれる人は今や少なくない筈だ。

自分はどういう場所にこういう話を提案していいのか残念ながら今知恵がうかば無いが、どなたか然るべき方に話を聞いていただく事が叶えば嬉しい。

因に、デュッセルドルフの日本総領事邸に置かれていたピアノは、同じノルドライン・ヴェストファーレン州のブッパータール(Wuppertal)にあるイバッハ(Ibach)が戦前に製造した、趣味の良い装飾が施されたピアノだった。
陛下のお写真が置かれたピアノの蓋を恐る恐る開け調律を始めた記憶は鮮明だ。

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