完成

2010年12月25日(土)

今年の夏に録音した、仲道郁代さんピアノ/有田正広さん指揮のショパン・ピアノコンチェルトのCDが今月22日発売された。

コロンビアさんが視聴盤を送ってくださったので、自宅のステレオ装置で聴いてみた。録音時の光景が思い出され、コロンビアのプロデューサーの国崎さんもおっしゃっていたが、仕上がったCDをとても感慨深く第一回目の視聴をさせていただいた。

今回の録音は、ショパンが使用していたピアノと同じモデルで、製造年もショパンが生きていた1841年。オーケストラの楽器も現代の物ではなく当時の楽器を使用し、ショパンのサウンドの再現がされた。なので、ピッチも427Hzでおこなった(半音のほぼ半分低い)。音律は不等分律1/8。

Pleyel 1841 Schriftzug

自分の頭にあるショパン・ピアノコンチェルトと大きく異なっている部分は、ソロのピアノの時のオーケストラとの絡みだった。現代の楽器でこのコンチェルトを演奏するとき、ピアノのソロの部分のオーケストラの伴奏は、同一楽器が複数台数で編成されている。が、今回の録音では、ピアノソロの部分では、室内楽のように各楽器が一台ずつだった。なので、ピアノの旋律とオケの楽器との旋律の絡みが絶妙で、旋律同士の絡みで心が引き込まれ圧倒された。
ソロの部分が繊細な室内楽のアンサンブルのようなので、トゥッティーでフルメンバーになった時の音量が、相対的に大きくなる。だから、オーケストラの人数が現代より少なくても充分な迫力がある。

当時のプレイエルについてCDの差し込みの中に書かせていただいた文章から、一部紹介したい:
・・・・・このプレイエルの弦張力はまだまだ低く、現代の平均的なピアノの弦張力の約35 %程度である。そのため、弦を振動させるハンマーも、小さくて軽くフェルトも柔らかい物が使用される。現代と比較すると、きわめて弱い弦張力をベースに、ハンマーやアクション、そして、響板やケース構造が考えられている。
もう一つ、ピアノの構造や響きの特徴を理解する上で、当時のヨーロッパのピアノ製造流派を意識する必要がある。
フォルテピアノ製造の大きな潮流の一つは“南ドイツ・ウィーン派”、もう一つは“イギリス・フランス派”、という二つの製造流派に大きく分類される。この二つの流れで、ピアノの響きの個性をある程度つかむ事ができる。

Pleyel 1841 Mechanik

しかし、プレイエルを、同じイギリス・フランス派に属し、突き上げ式アクションを採用するエラールと比較してみると、タッチ感のみならず、響きもずいぶん異なるのが興味深い。
エラールは、現代のピアノアクションの原型になる、ダブル・エスケープメントと呼ばれる連打性の良いアクションを発明し、それは当時既に採用されていた。プレイエルが当時のアクションで使用していたのは、シングル・エスケープメントと呼ばれる機能である。この二つのメーカの違いは、連打の優位性が異なった、という機能性の違いのみでなく、鍵盤の運動(タッチ)が響きに変換される具合、すなわち、演奏するピアニスト自身が体感する、タッチによる音色の変化のしかた、楽器から放たれる色彩感の雰囲気が“ずいぶん異なる”という事を繰返し述べたい。

Pleyel 1841 Klaviatur

リストは、フランスのピアノの中ではエラールを好み、ショパンは、対照的にプレイエルを好んだというが、この1841年製のプレイエルの個性を、音楽的な表現の可能性と照らし合わせてみると、ショパンがプレイエルを好んだ理由にまで考えを及ぼす事ができる。
・ ・・・・続く

このCDは、ショパンのピアノコンチェルトの“いつもの印象”を一掃し、ショパンを理解する上でも意義のあるアプローチだと思う。
当時、ショパンの演奏するピアノの音が小さいという酷評に対し、ショパンは、
「自分の表現したい繊細な表現を聞き、理解する人が少なく悲しい」という事を言っていたそうである。であれば、現代の多くのショパンの演奏はいったい何だろうか?

200年近くという、長い歳月の間に変化を遂げた結果、の表現に馴らされた感覚をリセットできる、仲道さんのピアノソロの内声と外声の動き、そして、有田さん率いるオーケストラの絶妙な絡みを是非お聞きください。

CDは: Chopin Piano Concertos Nos.1 & 2
仲道郁代、ピアノ(1841年製 オリジナル・プレイエル)
有田正広 指揮
クラシカル・プレイヤーズ東京(オリジナル楽器使用)
COGQ-49 DENON

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