響きの輪郭に深みがでた! と実感する体験がここの所数回あった。
ハンマーが弦を叩いた瞬間が、弦そのものにスポットをあてた場合、振動のエネルギーは一番強いと思われる。
が、弦を叩いた瞬間から一瞬後に、響きが豊かになるポイントが来る。このポイントが響き全体の奥行きを深くし、陰影を明確にする。
成熟いう呼び方が最も適していると自分は思うが、5~6年経過したピアノは、この、打鍵の一瞬後に感じる響きのふくらみが強くなる。
曲を聞くと音色の量が圧倒的に多くなった、と感じる。そして、作曲した音楽家は、この響きの膨らみを意識して響きを重ねたのではないのか。と思える事も少なくない。
天使が毎晩やってきて、ピアノに細工を施しているのではないかと思わんばかりのでき事だ。要するに、調律や整音でなんとかできる範囲を超えた場所で起こる出来事なのだ。
ベヒシュタインは2000年にフルコンサートから構造を変えた。先ず、フルコンサートのENをDに、そして次にB型の改造に着手したので、前のタイプのB型の最終ロッドは2001年後半で終わった。この写真は、その以前の構造で造られたB型の最終ロッドの内の一台だ。
ユニゾンの3本の弦を束ねる真鍮製のアグラフと呼ばれる部品が、最高音のセクション迄使われている。当時の構造の特徴的な部分だ。
この構造の場合、先に述べた響きの膨らみが出てこないと、特にフォルテで弾いた場合、線が細い感じが拭えない。しかし、今回調律に行って、明らかな「響きの熟成」を感じた。前回伺った時も、大分変わってきたな、と感じたが、今回は確信できる変化だった。
天使もその作業に、納品してから約8年かかったようだ。
何時の時代も、フォルテピアノに最も近いモダンピアノがベヒシュタインと言っても過言ではない。と、自分は思う。