立体

2010年11月14日(日)

立体

仕事柄、二台合わせの調律をする事がある。それも、同機種ではなく、他機種を合わせるという事が殆どといっていい。
昨日は、国立音大のTクラスの発表会で、東大和市のハミングホールでの仕事だった。

ピアノコンチェルトがあり、T先生がオケパートをベヒシュタインで、生徒さん達がソロでスタインウエイを奏でる、というセッティングだった。。
いつも書いているが、ピアノコンチェルトのオケパートは、僕は絶対的にベヒシュタインが好きだ。
ソロピアノにフォルテピアノを使用し、伴奏をモダンピアノで、という試みを以前工房コンサートで行い、その響きのマッチングに感動したが、今回はソロはスタインウエイで行なわれた。

hamming hall Prof. Takao

オケのシンフォニック感が解るようにピアノ演奏されると、響きの立体感が出て壮大な感じが体験できる。特にコレペティも同じだと思うが、オケの代わりをピアノが務める場合、単線率を奏でる楽器と、同時に多くの音が出るピアノの違いを明確に意識できる。

T先生の、響きの立体感を生徒に体感させたいという気持ちからか、音合わせのとき
「響きが面白いでしょ」
とステージから若い学生に向かい話をされていた。

スタインウエイは響きが横に膨らむ感じで、ボリュームが充分ある。
ベヒシュタインの響きは縦割りに聞こえ、響きがスマートに広がる。

こういう感じで音を聞く事ができる環境やピアノの響きを聴く意識も、たった20年前は、皆無だったと言っても、言い過ぎではないのだろうか。

話は少し変わるが、昨日は調律を終えた後、待ち時間もあった事から、舞台裏で、スタインウエイの調律にいらっしゃったYさんというベテランの調律師さんの話しをうかがうことができた。
戦前 → 昭和30年代 → 40年代、と、音楽とピアノを取り巻く環境の変化と、その中でのYさんの道程についてだった。

戦後生まれの自分はうっかりすると、戦前の環境を“ずいぶん昔の事”と心にも留めない事になりがちだ。音楽との接点と言う観点で、戦前からの流れの中でのお話を伺う事ができ、現在の環境は、“確実に”その土台の上に成り立っていて、その環境の変化のスピードは凄まじく早かった。と言う事を再認識した。

Yさんがピアノに出会った時は、東京の町内でもピアノはたった3台あった程度だったそうだ。
そのお話の多くは、先日体験したばかりの武満徹の話や、以前テレビで見た小沢征爾の話とオーバーラップするような内容だった。

先に「環境や意識がなかった」と書いたが、日本における西洋音楽の市民への普及の歴史を、自分やその周りを取り巻いていた環境に冷静に照らし合わせれば当然なのだ。。。。

この、T先生門下の発表会は、今の環境から、更に大きな一歩を学生達に与える物になるだろう、と考えながら会場を後にした。

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