僕が初めて降り立った海外の地は旧東独のLeipzigだった。
当時の東独は、町に余計な色が無く、外国人向けのドルかドイツマルクしか使えない高級ホテルの中でさえ、清楚で静かだった。
まだ暗い朝、ホテルの窓から見える、車が殆ど通らない大通りを仕事に向かう人が歩く姿に、18/19世紀にタイムスリップをしたような錯覚を感じさせられた。
トーマス教会の壁の石から聴こえる足音の静寂な余韻は、存在する音に重みを与えていた。
バッハについて特別な思い入れがあった訳ではない僕だったが、彼の作品が、時代そして街から与えられた彼の大きな使命だったように感じさせられる空間だった。
今、CDから流れる音楽を聴き、その時の事をふと思い出した。
前に、ブログで紹介した、日本で録音したエル=バシャ(Abdel Rahman El Bacha)のバッハ平均律クラヴィーア曲集第1巻のCDが何日か前に完成し、ようやく静かに、集中し、今、自宅のステレオで視聴できた。
ポリフォニー(多声)のピアノでの演奏の意味を改めて感じさせられるパフォーマンスは、まるでバス、テノール、アルト、ソプラノの人の声のような錯覚さえ受ける。
彼が、何故この収録にベヒシュタインをチョイスしたのか、静かに彼の音楽に向き合うと理解できる。全ての瞬間の音が生み出すハーモニーと、旋律の絡みの変化の奥行きの深さに感動する。
人間は凄い。。。
CDの紹介
レーベル:TRITON, CD No. :OVCT-00077
J.S Bach 平均律クラヴィーア曲集 第1巻(24の前奏曲とフーガ)
アブデルー=ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)
使用ピアノ:C.BECHSTEIN D-280
発売元 :オクタヴィア・レコード