久しぶりに深町純さんと仕事をさせていただいた。
まるで、リストがショパンを演奏しているようなパフォーマンスだ。圧倒された。
その人の持っている「何か」が強烈だと、作品そのものが「何か」に支配される。というか、「何か」が、心を同じ場所に誘うと言うべきなんだろうか。
鎌倉の腰越で、今日、明日と、深町さんのショパンのコンサートが企画され、調律をご依頼いただいた。
明日ショパンの命日なので、即興演奏ではなくショパンのコンサートだ。
深町さんとは長くおつきあいさせていただいているが、立て続けにショパンを演奏するのは、自分には初めての経験だった。
深町さんの音に出会ったのは、中学の時買った井上陽水のレコードでだった。
ピアノ、シンセサイザーの音が、凄く印象的だった。なので、いつになくジャケットに書いてある名前を確認した。以来その名前は頭に刻まれていた。
それから約10年後、本物の深町さんに出会った。
ピアノの響きがレコードを聞いた時に体験したのと同じだった。
同じような体験をした事がある。
アメリカからリチャード・ティー (Richard Tee) が来日した時の事だ。
以前籍を置いた会社の上司を説得し、弦とハンマーを交換し改造したCP-80という電気ピアノを、武道館のコンサートのリハーサルに持ち込み、使ってもらえないかとお願いをした事があった。音が立つ感じを気に入ってくださり、コンサートに使用していただく事になった。
彼の作る独特なサウンドは、CP-80を完全に彼の響きにした。
この二人のピアニストの強烈な個性は、いろんな意味で自分に大きな影響をあたえている。
今日のリハーサルは、84~85年頃からのさまざまな記憶を蘇らせた。
深町サウンドのショパン。完全なるオリジナルだ。リストの演奏会で驚喜する貴婦人が、リストの何に惹かれたのか解るような気がする。