2008年7月28日(月)
一月程前にハンマー交換と整音が終わり、少し弾き込んでいただいたので音の輪郭がさらに膨らんだ感じになっていた。ハンマー交換と整音はいつも緊張するが、ピアノの声を全身で感じながら謙虚な気持で取り組む事にしている。
約80年程前にベルリンで生まれ、その後マグデブルクの演奏会場で使われた後、ベヒシュタインがコンサート用の貸出で使用したという記録がこのピアノに残っている。
恐らく戦前の巨匠と呼ばれたピアニスト達の手によって奏でられ、廻り廻って日本にやってきたわけだが、戦争をどう乗り越えたのか、そして戦後はどんなピアニストとの出会いがあったのかを考えると、自分にとってのこのベヒシュタイン Mod. Eとの邂逅は、職業のベクトルを方向つける、非常に重要なファクターになっている。
本当に先人達の技術・技能の素晴らしさには言葉を失う事すらある。このピアノも何かしてやろうと言う気が全く起きず、未熟な自分がその響きの芸術に試されている感覚が常にあった。
良いピアノとの出会いは、常に自分の煩悩との戦いになる。
そのピアノが発する響きの風格は、80年の歳月を隔ても大きくなりこそするが衰えはしない。
11月18日にこのピアノをサントリーに持ち出し、シューベルトの歌曲の夕べをすることになった。
19世紀の響きを完全に残すベヒシュタイン。。多くの人に体験していただきたいな。