ピアノ界への提言‐2

2020年9月29日(火)

やや堅苦しい話から始まって恐縮です。

ドイツ語に“ムジツィーレン”(musizieren)という言葉があります。

ドイツ語辞書(相良守峯編集1963年刊)によると、「音楽を奏する」とあります。1993年のドイツ中辞典(研究社)には、「(何人か一緒に)音楽を演奏する」とあります。ドイツに長く住んでいるとこの“ムジツィーレン”という言葉をよく耳にします。つまり音楽の重要な要素として「一緒に音楽をする」ことに根源的な楽しみがある、ということです。

さて、日本の音楽にかかわる環境を見るとき、「一緒に」という単語が重要視されていないようです。つまり、ソロの演奏がもてはやされ、各種のコンクールもソロ演奏で、大きな国際コンクールになると本選の最後で、ピアノコンチェルトや、ヴァイオリンコンチェルトが演奏されます。

このようにプロを目指す方でなくても、「アンサンブル」は楽しい音楽の本質でもありますから、プロになる前からまずこの根源的な、「一緒に音楽をする」という楽しみを体験していなければなりません。この根源的楽しみを育てていないところが音楽大学と称するところです。だからと言って、小中学生の初心者の教室でも楽しみを教える先生はまだ少ないと思われます。

日本の音楽大学では、「室内楽」の授業が必須科目ではないのです。生徒さんが喜々として授業を受けるヨーロッパと違います。

最近では、日本のアマチュア音楽愛好家も「一緒に音楽をする」ということに気が付いてアンサンブルを楽しむグループが出ています。彼らは、一緒に合わせる楽しみのために一生懸命練習をします。

一方、日本のコンクール熱もこのコロナ問題で一頓挫しておりますが、ピアノコンクールで優勝するには、テクニック=指が正確に動くこととミスタッチのないこと、音量(審査員によく聞こえるように?)が求められます。そして、優勝者には、主催者が賞金とソロのコンサートを計画してくれます。ただ、その優勝者のピアニストとしての賞味期限も、次のコンクールの年までで、翌年は次の優勝者に舞台を譲ることになります。その間、よほど成長しないと、忘れられます。またはここからの勉強のために海外留学をとります。

このような日本の状況の下で、本来の音楽をする世界をとり戻すには、どう改革ができるかを考えたとき、プロになる前の優れた小中高生に、アンサンブルの機会を提供することに意義があるのではないか、と考えた次第です。ピアノについていえば、立派なピアノコンクール優勝者に、ピアノコンチェルトを演奏する機会を提供しよう、ということです。

ピアノ曲の中には、アンサンブル・オーケストラの楽器編成を想定して作曲されたもの、逆にリストのようにピアノの発達に伴い、アンサンブル、声楽の曲をピアノ曲に編曲したり、ほかの楽器の音を想定したピアノ曲もたくさんあります。つまり、ピアノを弾く際でも、それぞれの音域でどの楽器がなっているのか、考える必要も出てくるし、その楽器の音をピアノで工夫、再現してみることも楽しいことです。管楽器と弦楽器では音の持続時間が異なります。ピアノを弾くときもタッチによって音色の変化も考えながら弾く、という勉強・練習もまた楽しいことです。管弦楽器奏者が自分の楽器にこだわるように、ピアノについても普段どのブランド(メーカー)のピアノが優れているか、というより、どういうピアノを作りたいかというメーカーの設計思想を知る必要があります。そしてそれを自分の耳とタッチで確かめることになります。この訓練は将来大ピアニストになろうというとき役立ちます。

日本のアンサンブルピアノ奏者がいかに軽んじられているかの挿話をお話ししましょう。

1.ある音大卒業生が、ドイツ留学を考えました。ピアニストとしては、ほどほどでしたので、せめて「伴奏ピアニスト」くらいと思って、ドイツの音大を目指しました。その事前のテスト(Vorspiel)で言われたことは、“ピアニストのコースはもしかしたら受かるかもしれない、しかし伴奏ピアニストのコース、つまり室内楽のピアノのコースはとても受からない!”という教授の判断でした。つまり、室内楽のピアニストの方がソロのピアニストより難しいということです。

2.ベートーヴェンの交響曲は、普段、少人数で練習したり楽しんだりということが難しいですから、家庭で、”musizieren”するために、J.N.フンメルは、作品55「英雄」作品67「運命」、作品68「田園」と名称無の交響曲を3曲(作品36,60,92)の計6曲を、ピアノ、ヴァイオリン、フルート、チェロの4人で楽しめる室内楽に編曲しています。(B.Schott 社)

現在楽譜を入手中で、入手出来たらコンサートを企画いたします。

ピアニストにとって、“ムジツィーレン”の中で最大の醍醐味は、ピアノコンチェルトの演奏でしょう。そこで、小中高生の段階で「ベヒシュタイン賞」と銘打って、「賞金」の代わりにこの「賞」を提供することは、プロになるならないは別にして、音楽人生のなかで、最も有意義な経験となります。これもコロナ終息に伴い、来年には実施できそうです。

ピアノコンチェルトの演奏は、オーケストラの費用だけでも相当になりますので、「ベヒシュタイン・カンマーオーケストラ」と称する約25名編成のオーケストラを組織し、このオーケストラをバックに演奏していただくことを提供いたします。

演奏人数、時間の関係から、曲目、楽章の制限を設けることもあるでしょう。

加えて、ピアノを趣味として続けておられる方にも、“musizieren”つまり、ピアノコンチェルトを演奏するという機会を提供したいと考えております。この場合は、ご本人に、費用のご負担をお願いすることになります。詳細はお問い合わせください。要項はただいま作成中です。

(戸塚記)

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です