【連載】ベヒシュタイン物語 第3楽章 ベヒシュタインはこうして作られる

 

30,《アフターサービス・技術者研修》

 

軽やかなそして敏感なタッチは、熟練した技術者によってのみ作り出されます。ベヒシュタイン社では、長年にわたる研究と多くの実績により、この反応の早い繊細なタッチを実現しているのです。そして、工場の専用の一室で入念に整音されたハンマーヘッドを持ったベヒシュタインが、微妙なニュアンスと調和のとれた響きを私たちに与えてくれるのです。

しかしひとたび工場を出て利用者のところに納品されたピアノの健康状態は、本来の主治医である工場の技術者が面倒をみるわけにはまいりません。ことに日本においては、四季の移り変わりによる気温・湿度の変化が激しく、いくら工場で念入りに製作されても、わずかばかりの狂いは生じてしまいます。

こうした狂いの是正、またピアノにはつきものである調律という作業はできるだけ工場での製作意図を十分に理解した上で、それにそって行っていく必要があります。ベヒシュタイン社および同じくドイツ・ザウター社と両社の日本総代理店であるタイヨー・ムジーク・ジャパンではそれぞれの工場における短期・長期にわたる技術研修制度を設定しています。この研修制度は、実際に工場の製作ラインに入り、楽器の製作過程、調整過程、整音、出荷調律などを経験して、その作業度合いに応じて工場推薦の技術者として認定する制度です。すでにタイヨー・ムジーク・ジャパンが日本総代理店を引き受けて以来四年間で、二週間の研修者は二〇名以上、三カ月から一年の期間では二名が研修を受けています(日本における二日間の研修参加者は約一〇〇名になります)。タイヨー・ムジーク社ではレベルの高い技術者養成に、今後とも力を入れていく方針です。

ユーザーは、ぜひともこの技術者研修履修者に、ベヒシュタインの主治医として、すべての調律、整調、整音、修理等をまかせられることをお薦めいたします。また技術者で工場研修に興味のある方は筆者までお問い合わせ下さい。

 

 

参考 BSTピアノ技術研修制度

GRUNDSTUFE(初級課程)

G-1 日本での商品の技術的な紹介に関するセミナー。

一日を要し、対象は技術者一般。

G-2 日本での二日間の調律・整調・整音についての研修。

参加資格は、実務経験二年以上の技術者。

 

MITTELSTUFE(中級課程)

M-1 二週間から一カ月のドイツでの調律・整調・整音・修理についての工場研修。参加資格は実務経験七年以上の技術者。

M-2 三カ月から一年のドイツでの工場研修。各製造工程での作業に従事。タイヨー・ムジーク社ドイツ本社にての期限付き就労可。参加資格は、M-1を終了し、かつドイツ語の基礎知識を有する者。ドイツの見習社員程度の給与は支給される場合もある。

 

OBERSTUFE(上級課程)

O-1 一年以上にわたるドイツでの工場研修。楽器としてのピアノ製作技術の習得、コンサートチューナーとして演奏会立会いも行う。参加資格はM-1を終了した者。三カ月は、ドイツの見習社員程度の給与、その後は実力次第。

O-M ドイツ国家資格であるピアノ製作技術者マイスター。シュトゥットガルトのマイスター学校(その他手工業者組合等でも一部実施)約一年履修後、国家試験。

O-2 コンサートチューナーとして活動、ピアノ製作技術・知識とも最高位に属する技術者でドイツ国家資格のピアノマイスター習得を前提とする。

 

各課程の修了認定は、履修後、M課程まではベヒシュタインまたはザウター社の工場の

マイスターによる判定。O課程はマイスターおよびベヒシュタイン、ザウター、タイヨー・

ムジーク各社の担当責任者の合意を必要とする。

 

つづく

 

次回は31,《一流ピアノを持つぜいたく》

をお送りします。

 

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向井

 

注: この内容は1993年発行のベヒシュタイン物語(ユーロピアノ代表取締役 戸塚亮一著)より抜粋しておりま す。なお、この書籍の記載内容は約20年前当時の情報を元に執筆しておりますので、現在の状況・製品仕様と異なる点も多々あります。予めご理解頂けますよ うお願い申し上げます。