10.《ルードヴィヒ二世との交流》
同じ年、1864年、ビューローとベヒシュタインは、バイエルン王へ献呈するグランドピアノのアイデアを練っていました。ビューローいわく「国王に献呈 するのだから、大胆で豪華でしかも気品のあるものでなくてはならない。しかし一体どのような風にしたらよいのだろうか。フォン・フィスターマイヤー氏に相 談してみる。」
1年後、ベヒシュタインは、ルードヴィヒ二世への手紙を書き、コピーをビューローに送りました。ビューローは、それを彼なりの丁寧な表現に直してこう書きました。
「殿下、いろいろとご足労をおかけ致しまして、大変申し訳なく思っております。この手紙を出しましたのは、実はわけがございます。お分かりいただけるとは 存じますが、別に殿下を悩ますつもりではなく、ただお知らせしたかっただけなのです。この機会に殿下への忠誠心を込めて、そして、私の偉大なる殿下への敬 意をあらわさせていただきたいのです。そして、殿下へのつつましく従順な家臣から、今後の殿下のますますのご活躍とご健闘をお祈りして、ほんのささやかな ものですが実に美しいものを献上させていただきます。」
ビューローが、このベルリンのピアノ製作者をたいへん尊敬していることは、彼が同じくベルリンのピアニストで、またフィルハーモニーの指揮者でもあるカール・クリンドヴォートに宛てた手紙の中にも、よく表れています。
「王室御用達となったプロシャのエラール『ベヒシュタイン』は、数週間前ロンドンの博覧会に出品するために、グランドピアノを送った。まもなく彼自身もロ ンドンへ行くことだろう。私は彼を応援して行きたいと思う。確かにあなたも知ってのとおり、今までのドイツのピアノは決してすぐれたものではなかった。し かし私はこの男をできる限りのことで刺激してみた。会社を始めるまではかなりの苦労があったようだ。1856年の秋、私は彼の手になる新しいグランドピア ノを使って、リストのロ短調のソナタで最初のリサイタルを開いてみた。師匠(リスト)は、彼の素晴らしいグランドピアノを、去年ヴァイマールで受け取って とても感激し、アリー・シェーファーが描いた、自分の肖像画をベヒシュタインに贈った。あなたが幸運にもこのとても尊敬に値する音楽を、非常によく理解している『グランドピアノ男』に協力できるとしたら、私にとってそれは願ってもないことなのだが。 カール・タウズィッヒ(1841~1871 当時の著名なピアニスト。無類のテクニックを持ち、天才といわれ若くして亡くなったが、多くの作曲家が彼のためにピアノ曲を献呈しました)でさえも、彼の ために火の中にも水の中にも飛び込んでくれる、ベヒシュタインのグランドピアノの魅力に取り憑かれてしまうことだろう」
ルードウィヒ二世とピアノを弾くワーグナー
つづく
次回は《ビューローはスタインウェイを引いたが・・・》
をお送りします。
向井
注:この内容は1993年発行のベヒシュタイン物語(ユーロピアノ代表取締役 戸塚亮一著)より抜粋しております。なお、この書籍 の記載内容は約20年前 当時の情報を元に執筆しておりますので、現在の状況・製品仕様と異なる点も多々あります。予めご理解頂けますようお願い申し上げます。