【連載】ベヒシュタイン物語 第二楽章 ベヒシュタイン社クロニクル

13.《一般ブルジョア家庭へ普及したピアノ》

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十九世紀において、ピアノはその時代の音楽の本質を表現しようとする、作曲家の意欲とヴィルトーゾの驚くばかりの輝かしい演奏技術への要求によって、完璧な設計が施され完成されていきました。それはとりもなおさず、一般家庭の普通の楽器にまでも反映されておりました。当時のピアノに関する記録によれば、 レコード・アルバムにも残っているような、ヴィルトーゾによる華麗な協奏曲や、超絶的な演奏技術を披露する独奏はもちろんのこと、大量に生産された楽器 と、印刷技術の進歩により大量出版された楽譜を手にしたブルジョアジーたち、特に若い女性の間で「春のささやき」のようなポルカやワルツのピアノ練習が盛 んに行われていたことが述べられています。さらにヨハン・シュトラウス(一世1804~1849、二世1825~899)のワルツ、カンカン、オペレッタのアリアに代表されるような、親しみやすいオペラのメロディーや、古典派からロマン派におよぶ交響詩やコー ラルのピアノ編曲が氾濫してきていました。向上心の強い、快楽の追求に余念のないブルジョアジーの間では、もはやピアノは、個人で所有することが当たり前 となっていました。世代の代わり目にはまだピアノは、ダンスホールやコーヒーハウスにしかなく、ヴィルトーゾの陰にひっそりと潜んでおったのですが、ラグ タイムやツーステップやケークウォークのはやりだした1900年を過ぎたあたりから、多くの人々に弾かれるようになっていきました。
それまでの典型的で伝統的な楽器の販売のしかたは、音楽学校や大学との関係を密接に保つことでしたが、ついには、七つの海をわたる巨大航路にまで発展し ておりました。ベヒシュタインの白塗りのグランドピアノは、ハパッグロイド汽船の客船のバーをはじめとして、各種の汽船に積まれていたことは有名です。ロ シアの巡洋戦艦にまでものっていました。この、短期間における、ベヒシュタインの販売拡大は、並々ならぬ評判によるものであったことは、お分かりいただけ るでしょう。

 

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ロイド汽船“Columbus号”とその船内サロンに設置されたベヒシュタイン

つづく

次回は14.《専用列車が運行》
をお送りします。
向井

 

注:この内容は1993年発行のベヒシュタイン物語(ユーロピアノ代表取締役 戸塚亮一著)より抜粋しております。なお、この書籍 の記載内容は約20年前 当時の情報を元に執筆しておりますので、現在の状況・製品仕様と異なる点も多々あります。予めご理解頂けますようお願い申し上げます。