ヨーロッパのピアノ なぜ手作りなのか

 bechstein hall

 ヨーロッパピアノは同一モデルであってもパーツの寸法が微妙に異なることがよくあります。またアクションの調整も同じモデルなのにベストなポジションが違うということも多々あります。これは一台一台を手作りで現物合わせで作っているからということで、そこがヨーロッパピアノの評価に繋がっている部分もあります。ただ、私たちは「手作り」が素晴らしいのではなく「手作りに拘る理由」にこそベヒシュタインの本質があると感じています。
 ピアノは約300年前にヨーロッパで生れました。ピアノ職人はヨーロッパの作曲家や演奏家との対話を通じて、彼らがピアノの響きに何を求めているかを考え、共にピアノ音楽の歴史を創ってきました。今もベヒシュタインの本社があるベルリンには世界中のピアニストが集まり、対話を繰り返しながら楽器も進化しています。ベヒシュタインの技術者は常に「音楽家の要求=響きと音色」に寄り添いながら楽器を作っているのです。
 ベヒシュタインの職人が手作りに拘るのは、作りながら「音」を聴いているのです。弦の音はさることながら、木材や金属の音の高低や音質を聴きながら、イメージした完成品の響きと音色へ向かって作業していきます。音を聴きながら試行錯誤して素敵な響きを生み出していくことは、決してライン生産では出来ないことです。各工程の技術者が「音色」に拘っているからこそ、音に個性が生まれ、人々を魅了するのです。 
 
 ちなみにベヒシュタインのセカンドブランドであるホフマンの製造拠点がドイツのお隣チェコであるというのも、本国ドイツと地理上近いからという理由が挙げられます。ピアノが西洋音楽を演奏するための道具であるということを考えた場合、その作り手が西洋音楽を理解しているものでなければ、果たして作曲家の意図やピアニストの要求に応える楽器を作ることはできるだろうか-たとえコストがかかってもベヒシュタインのコンセプトを曲げないことが、西洋音楽の歴史を担ってきたメーカーとして未来の音楽愛好家へ正しく歴史を受け継ぐ方法だと考えています。