【連載】ベヒシュタイン物語 第3楽章 ベヒシュタインはこうして作られる

24,《材料・製作過程》

 

ベヒシュタインのコンサート・シリーズのグランドピアノについて、その材料と製作過程を具体的に説明いたしましょう。少々専門的になりますが、ベヒシュタインの音のすばらしさを理論的に理解することができます。

 

1〈ケース ZARGE UND HOHLWAND〉

ベヒシュタインのグランドには、全部で現在6種類の大きさのものがありますが、そのケースはグランドピアノ特有の丸みを帯びた形をしており、堅い木、柔らかい木の多くの組み合わせで出来ています。これは2~3ミリメートルの厚さの薄板を、60あまりにも及ぶそれぞれ独立して調節することのできる、スピンドルと呼ばれる工具で約100トンの圧力をかけて行われます。

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ケースは支柱と組み合わされて、響板にかかる弦の圧力を支える内側の部分と、ピアノ本体の外形を保つための外側部分からなっております。グランドピアノ特有の型を形作る外枠は、決して折れずにカーブを描ける16層の合板から作られます。内側の部分はKからCまでのモデルは16枚、フルコンサートモデルENに関しては17枚の、特別に厳選された「ぶな」材を貼り合わせてあります。
外側はこれもモデルにより異なりますが、ガボーン、マコレー、ホワイトウッド、マホガニー、アバヒ等をはじめとした、6~8種類からなる12~14枚の薄板を交互に貼り合わせた一枚の合板でできております。ケース内側は厚さ40~45ミリメートル、外側は22~32ミリメートルで、それぞれのモデルの大きさに最も適した厚さに加工されております。

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また、木材の加工すべてについて言えることなのですが、十分にシーズニングされた後、特殊な耐水性の接着剤を用いて貼り合わせ、部品としての形になった後で、湿度7パーセント(誤差1パーセント)の乾燥室内で半年以上寝かされてから、外気にしばらく触れさせ、再度乾燥室内に入れるということを繰り返します。もちろんこれは木材としての後に起こる狂いを抑え、強度を増すために行われるものです。そして部品としてまだ組み立てられていない状態で、ピアノが購入後通常置かれる部屋と非常に近い状態の温度・湿度を保ったところ、さらには人工的に四季や過酷な条件を作り出す装置に、同じように出し入れをすることで万全を期します。この時間と工程が実は大変に意味のあることなのです。つまりあらゆる部品を、人工乾燥機を使って短時間で湿度を落とすと、その後の狂いも早く当然強度も落ちます。機械によって、木材の含水率の数字を達成すればよい、という作り方と、そもそも発想がちがいます。

 

つづく

 

 

次回は24-2〈支柱 RASTENSPREIZEN〉
をお送りします。

向井

 

 

注: この内容は1993年発行のベヒシュタイン物語(ユーロピアノ代表取締役 戸塚亮一著)より抜粋しておりま す。なお、この書籍の記載内容は約20年前当時の情報を元に執筆しておりますので、現在の状況・製品仕様と異なる点も多々あります。予めご理解頂けますよ うお願い申し上げます。