【連載】ベヒシュタイン物語 第3楽章 ベヒシュタインはこうして作られる

24,《材料・製作過程》

 

5<響板 RESONANZBODEN>
言うまでもなく響板は楽器の命です。ハンマーで打たれた弦の振動は駒に伝わり、そして駒の振動は響板に伝わり、響板全体が大きく振動することで、ピアノの力強い豊かな響きが奏でられます。そして響板はどの楽器においても、その本質を決定するものです。
ベヒシュタイン・グランドピアノには、ヨーロッパ南東部、特に厳しい気候の高い山に生する、成長のスピードがゆっくりでかつ一定している「ハーゼルフィヒ テ(とうひの一種)」材が使われております。この木は切り倒された後、しばらく湿度の高い温かいところに寝かされ、密度の等しいもの、年輪の等しいもの、 節が無く樹液のないものが選ばれ、板状に切断された上で大気に触れさせた状態で、何と10年間にわたって寝かされます。これ程長い期間をかけてシーズニン グを行っているところは世界中に二つとないでしょう。こうして響板として最適の含水率を達成し、さらに内部の繊維組織を安定させてから、響板の形に加工さ れ、再び数ヶ月間、今度は通常のピアノが置かれる室内と、非常に近い状態に温度・湿度が調整されたところに放置されます。これにより楽器として完成した後 の、木の内部のひずみやそれによる狂いを避け、いつまでも響板として、最適な状態を維持することができるのです。
もちろん物理学的な音響特性の 面から、そしてまた長年の経験から板の厚さや木目の取りかたは決められます。響板の厚みは中央部分がいくぶん厚く、周辺部にいくに従って次第に薄くなるよ うに加工されます。これは駒を中心とした音の振動を、最大限にそしてもっとも早く響板全体に到達させ、響板全体で音を表現しようという意図によるもので す。またかつてのベヒシュタインの響板はシリンダー型、つまり円筒の側板のようなふくらみ(クラウン)をしていました。その後の改良により、今では球状の 断面に近い形状となっています。耐久性そして音の伸びを考えた、伝統と理論に裏付けされた研究が常になされています。このような確たる設計および作業・加 工が、ベヒシュタインとしての響きをもたらしているのです。

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6<響棒 RIPPEN>

前述のように、響板には独特 のふくらみが持たせてありますが、ここには弦の圧力という非常に強い力がかかっております。この力に対抗して響板のふくらみを常に保つために、響板はその 裏側から響棒と呼ばれるものが貼りつけられております。音の振動は木目の方向にその大部分が伝わるのですが、響板の木目は効率よく音を伝達するために、す べて同じ方向に揃えられています。響板全体に音をよりよく響かせるために、響棒は響板の木目に対して垂直になるように位置しています。この響棒の状態も支 柱同様に、ピアノの下からよく見ることができるでしょう。
ベヒシュタインでは、響棒においてもその材料は響板同様に厳選され、長年にわたる経験 と多くの実績から割り出された、1本1本が異なった幅と高さを持つ、柾目に切断された「ハーゼルフィヒテ」材を使用しています。その効果はしなやかさと音 の振動に対する敏感さにより、響きの違いとしてはっきり特徴づけられることができます。
響棒の数は響板面積の大きさが異なる、それぞれのモデル においてKは11本、Mは12本、Bは14本、Cは16本、ENにいたっては17本用いております。そしてこの響棒は、ケース内側に対して「ほぞ組」がな された上、響板に接着剤でしっかり密着されています。そして響棒を含めた響板全体を保護するために、特別な塗装が施されております。

 

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つづく

 

次回は24-7〈駒 STEGE〉
をお送りします。

向井

 

注: この内容は1993年発行のベヒシュタイン物語(ユーロピアノ代表取締役 戸塚亮一著)より抜粋しておりま す。なお、この書籍の記載内容は約20年前当時の情報を元に執筆しておりますので、現在の状況・製品仕様と異なる点も多々あります。予めご理解頂けますよ うお願い申し上げます。