【連載】ベヒシュタイン物語 第3楽章 ベヒシュタインはこうして作られる

24,《材料・製作過程》

 

7〈駒 STEGE〉

弦と響板の間にあり、ハンマーで打たれた弦の振動を響板に伝える働きを持つ「駒」は、響板の表側に密着されています。そして駒はまたピンと張られた弦に圧力を出すために、傾きをつける役割も担っています。そしてそのために駒は鉄骨および弦との関係で、削っていかれるのですが、この駒削りと呼ばれる作業は、ベヒシュタインでは、すべて熟練工により、一本一本「蚤」による手作業で加工されています。その精度は、木材の気候による微妙な変化があったとしても、100分の1ミリメートル以内になっています。弦を駒にしっかりと固定する「駒ピン」も、一本一本熟練工の手により打ち込まれています。

 

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駒の材料は強度および音の伝達特性から、木目方向を駒の用途に応じ、精密な加工ができるよう十分考慮し、「白ぶな」材を上面に「赤ぶな」材を下面にはりあわせたものを用い、丹念に駒としての理想的な形にまで加工されます。

 

8〈鉄骨 PLATTE〉

鉄骨の形状はすでに100年以上も前に完成されていて、その後さまざまな改良は受けておりますが、基本的なところは変化しておりません。薄く広がった鋳造による鉄板であるグランドピアノの鉄骨のことを、ドイツの技術者は「ピアノの背骨」と呼びますが、この金属はそれぞれの弦の張ってある方向に追従し、低音部と高音部を交差させる役割を持っています。脊椎という発想は、鉄骨の機能およびその性格を非常によく表しているように思われます。

 

Plate

 

現在ほとんどのメーカーが、この鉄骨を鋳造工場に依頼したりして、さまざまな手法で短時間にして完成される「大量生産」となっておりますが、ベヒシュタインでは鉄骨を一つ一つ生命のある物として、時間をかけてゆっくり製作し、取り扱いには十分に注意しています。そしてベヒシュタインの鉄骨は、高品質で塗装仕上げが素晴らしいことで高い評価を受けております。外見ばかりではなく、次に述べます伝統的な製造の方法は、カァアァーン、ゴォオォーンと街に鳴り渡る協会の鐘と同じで、みんな同じように見えますが、素材(金属の配合具合)や製法によってはとても嫌らしい共振を作ってしまいます。

鋳型(砂で作られた型に鋳鉄を流し込む製法)で作られる鉄骨は、型からでたばかりの状態では多くの箇所にひずみを持っています。これをこのまま使用してしまうと、そのひずみの部分で不必要な共振を起こしたり、場合によってはそこから折れてしまうということもあります。何しろこの鉄骨は230本以上に及ぶ弦の張力の合計、20トンもの力(これはジェットエンジンの推進力に相当するものです)に対抗しているのですから。ベヒシュタインではこのひずみを、なるべく自然にとるために、鉄骨を最低でも一年間放置しています。無理やりに急激な処理をしますと、ある一部分のひずみはとれたとしても、ほかの部分に別なひずみができてしまいますから。

 

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弦の張力に対抗するために鉄を一部に使用することは、18世紀の終わり頃から始まります。19世紀中頃には、総鉄骨と呼ばれる鋳鉄製一体型のフレームが登場します。ピアノ全体をこの鉄骨で支えることにより、弦の張力をそれまでの何倍にも高めることができるようになりました。このことの音楽の世界への貢献は、計り知れないものがあるでしょう。力強い豊かな響きがピアノにもたらされることになったのです。「ねずみ鋳鉄」といわれる鉄骨は、工場内で一つ一つ加工されていきます。その主たる作業は、その鉄骨に応じた最も適当な正確な位置になされるさまざまな大きさの穴あけです。もちろん鉄骨には、ベヒシュタインという社名、モデル名、マークが刻まれています。そして、1年以上寝かされた後、響板をはじめとする木の部分と合わされ、次の工程を待ちます。

 

SEASONING屋外でシーズニング中の鉄骨

 

 

つづく

 

次回は24-9〈アグラフ AGRAFFEN〉
をお送りします。

向井

 

注: この内容は1993年発行のベヒシュタイン物語(ユーロピアノ代表取締役 戸塚亮一著)より抜粋しておりま す。なお、この書籍の記載内容は約20年前当時の情報を元に執筆しておりますので、現在の状況・製品仕様と異なる点も多々あります。予めご理解頂けますよ うお願い申し上げます。