【連載】ベヒシュタイン物語 第3楽章 ベヒシュタインはこうして作られる

24,《材料・製作過程》

 

24-15〈ハンマー HAEMMER〉

鍵盤を押したピアニストの意志に従い、弦を打って最終的に音を出すのがハンマーです。ピアノという楽器が生を受けてから、さまざまなハンマーが用いられてきましたが、現在は木にフェルトを巻きつけたものが一般に使用されています。

ベヒシュタインのハンマーヘッドには、特に防虫処理されたメリノ・ウール(高級衣類用の特に毛足の長い羊毛)が使ってあります。フェルトは強力に圧着された後、堅くそれでいて弾力性に富むくるみ材に接着され、そして鋲で止めてあります。これらハンマーヘッドはレンナー社およびアーベル社への特注品ですが、一つ一つアクションに組みつけられる前に、いったん表面を削ってフェルトに試し針を刺して、さらに十分にその品質を検査します。もちろん品質に問題のあるものは返却されます。たった一つのハンマーヘッドに対しても、限りない追求をすることで、ベヒシュタインの「高貴」と形容される音色を高い水準で維持できるのです。

整調と呼ばれるアクション全体の動きを調整する作業で、弦との当たり方を正しくされたハンマーヘッドは、その後整音という作業を受けます。これはハンマーに針を刺すことで、フェルトのそれぞれの部分の緊張をほぐし、弦を正確に捕らえ振動させるようにすることで、その弦のもっている固有の響きをよりよく出すようにするのです。マイスターの手で一つ一つの音の響きが確かめられ、半音階で弾いて音のつながりに切れめがないようにします。最終的にベヒシュタインのキャラクターを決める大事な作業であると言ってもよいでしょう。

 

hammer

 

24-16〈脚・ペダル FUESSE UND LYRA〉

一番大きなフルコンサートモデルでは、0.5トンにもなる重量をしっかり支えているのが脚です。ペダルは、手の力の何倍にもなる足で踏まれるため、これも十分な強度をもっていなくてはなりません。ベヒシュタインでは、堅木を何重にも接着して、その上から高級化粧板がはられております。また、特殊な止め方で、しっかりと固定されています。これは、日本製のピアノとまったく異なり、ネジのみによる単純な固定ではなく、何度となく取り外しを行ってもガタが生じません。ただし、運送の際には、不用意に作業を行いますと、修理不可能な損傷をしてしまいますので、十分にベヒシュタインのことを熟知した専門家にまかせることをおすすめいたします。

また、すべてのモデルが、ダンパー、ソフト、ソステヌートの機能を持つ、鋳造加工の真鍮三本ペダル仕様です。

 

24-17〈キャスター ROLLEN〉

重量のあるピアノは簡単に持ち上げて移動することは困難です。そのためにあるのがキャスターです。すべてのモデルには無垢の真鍮製のキャスターが装備されており、自在に移動することができます。特に、コンサートモデルENおよびCは、大型のダブルキャスター仕様となっており、安全としっかりとした固定のため三対のうち二対にはさらにブレーキが装備されています。内部に多数のボールベアリングを持った、このキャスターは、重量のあるコンサートグランドピアノの移動を容易にしております。

 

24-17〈外装 OBERFLAECHE〉

黒艶出しから木地仕上げまでさまざまな外装がありますが、外装仕上げの基礎となるのは、何をおいてもまず木の質です。例えば乾燥状態が十分であるということで、それをさらに十分な圧力をかけて貼りあわせ、そして表面に化粧板を貼ります。その後木地仕上げや塗装仕上げに応じて着色し、何重もの塗装を行い磨きだします。下地の全く見えない黒塗りの場合でも、塗装の下にはどんなに複雑なところまでも化粧板が確実に貼られています。

何十年も変化しない外装は、こういう目に見えないところにまで及ぶ細かな作業によるものです。もちろんすべての作業は手で行われております。

 

geheuse

 

25-18〈木材・接着剤 HOELZER UND LEIME〉

木材加工はその多くが専門の家具職人の手によって行われ、細かな部分まで丹念な芸術的ともいえる手作業により作られています。ベヒシュタイン・ピアノに使用されているすべての木は、その目的、音に対する影響、強度、加工具合などに見合った種類が選ばれ、そしてそれらすべてが十分に注意を払った状態で長期間保管されております。加工する前には、最新の乾燥設備により、使用する場所や木の種類に応じて7~9パーセントの含水率までゆっくりと乾燥が行われます。また、加工の際には、後の変形、音の伝幡性を考えて木目の方向まで十分配慮されます。そして接着には、高品質少なくともDIN(世界でもっとも厳しいとされるドイツ工業規格)B-3以上の規格の耐水性接着剤が用いられています。

 

つづく

 

次回は25《モデルの選択をどうずるか》
をお送りします。

向井

 

注: この内容は1993年発行のベヒシュタイン物語(ユーロピアノ代表取締役 戸塚亮一著)より抜粋しておりま す。なお、この書籍の記載内容は約20年前当時の情報を元に執筆しておりますので、現在の状況・製品仕様と異なる点も多々あります。予めご理解頂けますよ うお願い申し上げます。