ベヒシュタインのグランドピアノを作ること

なぜベヒシュタインのグランドピアノの音色はこれほどまでに素晴らしいのか?
ベヒシュタインのピアノ作りの偉大な芸術の秘密を紐解いていこう。

伝説的な音色を持つピアノ

ベヒシュタインのピアノは温かく、色彩豊かで、抒情的、歌うような、クリアで澄んだ伝説的で比類のない音色を備えている。音楽の創造性に限界を設けず、ソロ演奏でも室内楽のリサイタルでもどちらにおいても最適である。
その明晰さと純度の高さが典型的なベヒシュタイン・ピアノの音色は、独特の鮮やかな次元での演奏を提供する。

音色の投影

ピアニッシモの抒情的なカンティレーナ(歌うようなメロディー)であってもパワフルなフォルティッシモであっても、ベヒシュタインの音色は威厳をもって放たれ、演奏者の意図と生き生きとしたタッチを正確に反映する。
ベヒシュタインのコンサート・グランドピアノは、驚くべきダイナミズムと主張力を誇るパワフルな楽器である。

このような卓越性はどこから来るのか

ベヒシュタインの比類ない音のスペクトルは層括的なピアノ作りの哲学である。
すべての製造過程において、私たちのピアノ製作者と専門家たちの長年の経験と知識の深さは、何一つ偶然に委ねられているわけではない。
そのミステリアスな世界とピアノ製作へのベヒシュタインのアプローチの偉大な技を発見していこう。

響板

あらゆるピアノの要である響板は、慎重に選定された専用の木材から作られている。
それは、標高千メートル以上でゆっくりと時間をかけて育ち、非常に狭い間隔の年輪が自慢のマウンテン・スプルース。
この木材は厳しい品質チェックを受けた後、まず伝統的に屋外で乾燥させ、その後長期間管理された室内で乾燥させる。
一度形が作られると、響板に完全に制御された緊張を与える為に両端が先細くなった響棒を接着する。
さらに、響板の縁はより一層共鳴性を高めるためにわずかに削られる。

響棒(響板リブ)

響棒もまたマウンテン・スプルースから作られる。
響棒は弦のテンションによる響板方向への力を支え、そして、その振動を響板の表面全体に伝える役割を果たす。
響棒の細くなっている両端は響板のフレームに合わせて切り込まれた溝に完全に接合する。(以下参照)一度響板に接着されると、響棒は響板の振動を最適にし、“制御された緊張状態”を生み出す。

駒(ブリッジ)

駒は弦を、響板と響棒から形成される共鳴部位とつなぐ役割を果たす。特別な製造工程のおかげで、ベヒシュタインの駒は響板へ弦の振動を減衰することなく統合的に伝搬する。
ベヒシュタインのグランドピアノの響棒は垂直に接着されたヨーロッパのカエデの複数の層からできている。
その層の最上部には無垢のシデの層が貼られ、その上に弦が乗る。
ベヒシュタインのアップライトピアノの駒は無垢のブナで作られている。

響板リム(響板枠組)

響板リムは水平方向に長いマホガニーとブナの層で形成される。
支柱に組み込まれたリムに響板背面が組込まれ、振動をより良く伝える役割を果たしている。
響板、響棒、駒から成るパーツは念入りに“制御された緊張状態”の影響のもと、その上部(クラウン)が形成されるまで一定の時間寝かせられる。
続いてこのパーツはフレームと接合され、響板の上部をコントロールしながらフレームを調整する。
この複雑な手順は響板の共鳴を最適化するために行われる。

頑丈な側板

この側板は垂直方向と水平方向の複数のブナの層から作られており、これらは一緒に接着され、最適な頑丈さを実現するように設計されている。
素材は、側板が非常に安定した状態を保ち、そして完璧に響板が枠に収まるように慎重に選定される。

支柱

グランドピアノの裏側に見える大きな支柱は、響板背面の枠組みを固定する役割を担う。
支柱には慎重に選定されたスプルースを使用する。
支柱は“蟻継ぎ“(木材の接合方法の一つ)と大きな木材のダボを使用し枠組みに固定される。
この支柱は、鋳鉄フレームも支える、鉄製の部分で補強された奥框(横主軸)になる一点で合流する。
この特殊な設計は、アコースティック・アッセンブリー(音響をつかさどる組立部)のエネルギー循環を補完している。

鋳鉄フレーム

鋳鉄フレームはベヒシュタインのグランドピアノの絶妙な音色に絶対的に貢献している。
これは砂の鋳型に流し込まれるのだが、この複雑で費用のかかるプロセスは真空鋳造技術よりも優れた結果をもたらす。
特別な砂を使用することで、高度に精密な寸法と最適な断面の輪郭を備えた鋳鉄フレームが保証される。
すべてのベヒシュタインのアップライトとグランドピアノには音の伝播速度の速い鋳鉄フレームを備えている。
金属の部品がバックフレームと鋳鉄フレームを結合することで、アコースティック・アッセンブリ内部にエネルギー循環を集中させる。

サウンドベル

ベヒシュタインのB・C・Dラインのグランドピアノにおいては、サウンドベルが鋳鉄フレームの緊張を調和させ、高音部の弦の下にある響板の緊張を正確に制御することを可能にしている。

緊張と持続性

アコースティック・アッセンブリのすべてのパーツの間に存在する“制御された緊張状態”は、響板の振動を最大限に引き出すことを目的としている。
このことは、あらゆるベヒシュタインのグランドピアノの深く豊かに彩られた音色に絶対的に貢献している。
音響アセンブリ内の振動エネルギーのあらゆるロスを防ぐために、ベヒシュタインの響板の縁は特別な輪郭をしており、響棒が接合する溝はCNC技術(Computer Numerical Controlの略。
工作機械の動作をコンピュータで制御する加工技術)を使用して切削加工され、最高の精度を保証している。
慎重に選定された木材と様々な“寝かせ期間”、最高水準のテクノロジーの応用は、製造過程の間に生み出される精密な緊張が何十年にもわたり耐えることを保証する。

アコースティック・アッセンブリ

ベヒシュタインでの音響アッセンブリは、バックフレーム{支柱と側板と奥框(横主軸)から成るピアノの頑丈な“背骨”}と弦、響板そして鋳鉄フレームのことをいう。
これらが接着されると、フレームと側板はその緊張を安定させるためにじっくりと6か月間寝かせ、乾燥させられる。
この“寝かせ期間”はすべてのベヒシュタインの楽器作りの過程で見られる。
フレームと支柱・奥框(横主軸)が接着されると、これらすべてのパーツは順番に側板に接着される。
それから響板はこのアンサンブルへ正確に取り付けられ、安定した位置に固定されるよう接着する。