「革命前夜」を読み終えて

2018年5月27日(日)

先日ユーロピアノHPのニュースで、須賀しのぶの「革命前夜」にベヒシュタインの記述があると知り、さっそく読んでみました。須賀つながりで須賀敦子の著書を探していた私は、本屋さんで「革命前夜」が出ているのは知っていました。しかしどういう内容かを知ると興味がわいてきました。

ベルリンの壁が壊れる前の東ドイツ・ドレスデンへ日本からピアノ留学する主人公をめぐって、さまざまな人物が登場します。1989年当時、私は中学生。テレビで壁崩壊のニュースを連日見ていて歴史がまさに動いているのを実感し、これからはドイツ語がはやるのでは?と勝手に思い込み、大学ではドイツ語とドイツの歴史を専攻しました。この作品はフィクションではありますが、舞台裏ではほんとうにいろいろなことがあったのだろうなと思わせる、かなりしっかりと時代考証がされています。ただ、主人公が猛勉強したとはいえ、たった数カ月でドイツ語がうますぎるんじゃない?とは思いました。国を背負ってピアノを学びに来ていた当時のアジアの留学生もでてきます。

ドイツ再統一から10年以上たって私はドイツに2年半ほど住み、その間にベルリン、ドレスデン、ライプツィヒなど旧東であった都市を旅行しました。都市部はそこそこきれいになっていても、郊外に行くとまだ壊れたままのビルやさびれた町並みなど、経済的な格差もまだまだ感じました。当時はどんなだったろうと想像しつつ、非常に興味深く読みました。各都市にシュタージ(Staatssicherheit 国家保安省)博物館があり、当時の盗聴機器や自分の妻や夫、恋人が実は密告者だった(IMという市民の中にも情報提供者がたくさんいた)というショッキングな事実を公表、展示していて、ドイツ人はずいぶんサディスティックだなぁと思いました。そして誰も信用できないという殺伐とした雰囲気は自分には耐えられないだろうなと感じました。

文章から音が聞こえてくるようなシーンもいくつかあり、ラインベルガーやメンデルスゾーンのオルガン曲というのも聞いてみたくなりました。そしてもちろんニュースになったベヒシュタインの特徴をうまく表現した部分もありました。主人公の好きなバッハの平均律にもばっちり合いますね。その他グロトリアンの記述もありました。

ちょっと文庫でも分厚目、1000円近くしますが、ぜひ読んでみてください。