こんにちは。赤坂ベヒシュタイン・センター拠点長の小林です。
さて今回は、前回ご紹介いたしました新録のInbarによるベヒシュタイン使用シューベルトのピアノソナタ第15番D840(フィニッシー補筆完成版)についての更新です。
とはいえ、今回は2楽章までのご紹介ですのでフィニッシーが補筆した3,4楽章に関しましては次週となります!
お楽しみに!!!!曲演奏共に大変すばらしいものの、結局フィニッシー完成版は思ったより魔改造されており、どのようにご紹介するべきか大変迷ってますが
前回も書いたかもしれませんが、このシューベルトのレリークソナタは未完の作品ですが、完成された1,2楽章のその独特の雰囲気から未完成部分まででも取り上げられて演奏される曲です。
シューベルト28歳の時の作品ですが、恐ろしく達観した作風です。
レリークという単語には遺作等の意味合いがあり、実際出版の際に遺作と勘違いされた経緯からそのような通称が付いたようです。
・1楽章
ハ長調4分の4拍子の大変規模の大きい第1楽章です。平均演奏時間は17分くらいでしょうか。当時のピアノソナタとしては規格外に巨大なソナタ形式です。このソナタが名曲と言われる由縁もこの楽章にあるかと思います。
ゆったりとした雰囲気の中E,G,E,G,A,G(ミソミソラソ)から始まる旋律ですが、様々な和声を当てはめることが出来、単純かつ奥深いものとなっています。(この辺りは21番D960終楽章なんかもそうですね)
安堵しているような、不安を押し殺しているかのような不思議なテーマですね。
僕はこの第1主題を聴くたびに、真っ白で何もない荒野を思い浮かびます。
ソの音を中心音とした音楽作りとなっており、そのあとに続く動機もソを中心として音楽が進みます。
さて、第2主題です。
リズム的には全く第1主題と一緒ですね。
しかし、ロ短調という普通のハ長調のソナタ形式からは考えられないような転調をしています。
第1主題とリズムは一緒ながら、情感あふれるメロディーとして展開されています。
Inbar氏の演奏ですが、大変バランスの良い演奏に感じます。早すぎず、遅すぎずなテンポでややもすれば冗長になりがちな曲をうまーく型にはめ込むことに成功しています。そして、ベヒシュタインを使うだけあって音の分離感が素晴らしいですね。下記譜例の展開系の連続なんて、実にそれぞれの和音のキャラクターがはっきりと表れ(もちろん演奏者の解釈もあるかとは思いますが)ベヒシュタインの良さが生きているように思います。
・2楽章
ハ短調で8分の6拍子、クルシェネクによると5パートからなるロンド形式だそうです。
ハ短調の物悲しいメロディーが現れ、
長7度音程で音楽に緊張感を持たせます。
分散和音中心のメロディーへ繋がっていきます。
とてもシューベルトらしいメロディーですね。
ドラマティックな展開へなだれ込みます。
1番目の物悲しい主題と3番目のほの明るい主題とが組み合わさっていますね。
実に独特な雰囲気です。
さて、肝心のInbar氏の演奏ですが、実に素晴らしいです。この楽章の持つ不安定さを繊細に感じ取って音にしています。聴き終わったときに安堵するような恐ろしいシューベルトっていいですよね。
さて、次回3,4楽章の更新日は未定です!
もしかすると年明けになるかもしれません。
お楽しみに!