題材に取り上げられたのは、バッハ・ゴールドベルク変奏曲
ユーロピアノ東京ショールームで、本日、マティアス・フックス先生のレクチャーコンサートがあった。
もう10年位前だろうか、、、フックス先生の同じテーマのレクチャーコンサートの通訳を数回した。
今日の曲の構成についての解説は、その時の復習にもなり、雑多な日常を過ごす事で、混沌とした頭を整理する事ができ、さらにこの楽曲への興味を深める事ができた。
以下フックス先生の解説を簡単に:
ゴールドベルク変奏曲は、モーツアルトのキラキラ星変奏曲のように旋律を変奏させるのではなく、ベースを変化させていく。
題材になるベースは、最初のアリアで、一小節に一つづつ、32小節に渡り提示される。
そのベースが、30回の変奏として変化していき、アリアに戻る。すなわち全部で32回ベースが変化する。
自分が改めてJ.S. バッハの凄さを感じるのは、美しい建造物のような構成を、音楽として造り上げている事だ:
最初と最後のアリアを除くと30の変奏がある。
その30の変奏部分の3の倍数になる区分、3番、6番、9番・・・が全て「カノン」になっている。
その「カノン」が、3番では→同音、6番では→2度、9番では→3度、12番では→逆行4度、15番では→逆行5度(単調)、18番では→6度・・・・と変化する。
「カノン」の、旋律1と追っかける旋律2のインターバルが、順を追って広がる。
そして、更にそこにベースの変化があるのだ。
その「カノン」に一つ置いて、「トッカータ」が正確に配列されている。
「カノン」と「トッカータ」の間に入るのは、ポロネーズ・シンフォニア・フー・ガボット等、舞踏の様式等の音楽のフォームが置かれているそうだ。
例えば:
3番 同音カノン、 4番 パスピエ、 5番 トッカータ
6番 2度カノン、 7番 シシリアーノ 8番 トッカータ
9番 3度カノン、 ・・・と続いて行く
と正確に配列されていくという事だ。
僕が最も感動するのは、カノンの部分だ。
カノンは:
かえるのうたが きこえてくるよ ぐゎ・・♪
かえるのうたが き・・・♪
と、皆、幼稚園や小学校で遊んだ ”あの、旋律の追っかけ” だ。
二つの同じ旋律が重なる事で、ハーモニーを形成し響きが美しく広がる。
旋律は最初と終わりがあるから、追っかけるという事は、片方の旋律の一番テンションの上がる所で、もう片方が始まったり、終わったりする。要は、二つの旋律の、緊張と緩和のポイントは同時ではない。
カンタービレ(歌)の表現が、響きに奥行きをつけ色彩感を豊かにする。
そして、ベースの変奏が加わる。
カノンの部分では、旋律1、旋律2、ベースの3つの部分の ”絡み” に意識が集中する。
そして、順を追ってカノンのインターバルが変化していくのだ。
ピアノの響きの中で、その3つの部分が分離され、旋律が歌のように聞こえると、まるで人が歌っているような錯覚さえ覚える。
ある時はテノールが前に、ある時はアルトが前にでる。アリアで提示されたベースの変化が加わる。
長い間、人を感動させられる作品には、凄みがある。しかし、人間の知恵は凄い。
理解できている所まで感動でき、理解が更に進めば、更なる感動がある。
意思をもった演奏表現を助けられる、良いピアノと良い調整の必然性を今日は更に感じた。