ピアノの製作の工夫はメーカーによって様々だ。
おいらは皆と違う楽器を作りたい!
という製作者の気持ちがあれば、工夫も同じである筈は無い。
自分は、仕事柄ヨーロッパ、中でもドイツのピアノと接する機会が多いが、前にもブログで紹介した門前仲町にあるシンフォニーサロンでは、アメリカのピアノをメインテナンスさせていただいている。
ビリージョエルのコンサート映像でもおなじみのBaldwinのグランドピアノがここにはある。
これは、このサロンのご主人がアメリカに在住されていた際、当地でお使いになっていた楽器だそうだ。
少し、荒削りな所があるが、調律をしているといつも自分の聞いている響きとは違った世界に誘われる。不思議なピアノだ。
タッチのレスポンスは良く、横への響きの膨らみ感が何処かアメリカっぽい。
ボールドウィンならではの構造の特徴として、弦が引っかかる“ヒッチピン”という部品の所での弦の引っかかり具合がユニークだ。
写真で言うと、弦がU状になって引っかかる黒いピンの所だ。弦は、鉄骨側の”ブリッジ”と響板という響きを大きくする板の上に接着される“駒”の間が主に振動する音源の部分になる。弦を止めている片方が調律をするチューニングピン。もう片方がヒッチピンになる。
最近のピアノの多くは、振動伝搬の具合から音量的に有利に作用する、と言う理由でヒッチピンの所でループでかけられ、1本の弦が2本の振動弦になる。
ヒッチピンは鉄骨に打付けられていて、ループでかけられた弦は、通常、鉄骨に密着するように張弦する。その方がポジションが安定し、調律の保持が確実になるから、と言う理由からだ。
しかしボールドウィンは、ヒッチピンの中程に弦がかかっている。
駒と弦の高さの差異(ピアノ製造技術では、この駒とヒッチピン部分の高さの差異を駒圧と呼ぶ)を、一本ずつ個別に調整できるからという工夫からであろう。
駒圧が変わる事で、音の延びは随分違う。スタインウエイもベヒシュタインも駒圧の調整は一本ずつで行なわず、違う方法で行なう。これも、今度比較と言う意味で紹介したい。
製作者の工夫を感じ、咀嚼してみると、響きの中に違う発見ができる。
技術者以上にピアニストは感じる筈である。食べ歩きならぬ弾き歩き。試してみてはいかがだろう。