駅からタクシーに乗れば良い
という言葉をそのまま受け。無人駅に降り想像していたタクシー乗り場を探したら乗場は無くタクシーの電話番号が書いてあった。
ドイツ語初心者の僕は、公衆電話前で話すべき事をメモ書きし、何回か口に出してからコインを入れた。
電話に出た男性の訛りの強い感じの第一声にドギマギし、受話器を握る手はすっかり汗ばんでいた。
その町の初めての思い出だ。
黒い森(シュバルツバルト)の中にあるシュパイヒンゲンのザウター工場を一人訪ねたのは1988年秋だった。
今日は、留学中に現地で手に入れたというベヒシュタイン B型を愛用されていらっしゃるM音大の先生宅での調律だった。ドイツ等のヨーロッパのピアノ専門店は、販売したピアノのまくり蓋の右下に屋号を入れる事が多い。
このベヒシュタイン Bもご多分に洩れず、バイス シュパイヒンゲンと販売店名が記されている。
そう、ザウターのある、あのとても小さな田舎町シュパイヒンゲンだ。
バイスという店の名前は今自分の記憶には無いが、自分が初めて訪れた時より更に15年程前にはその田舎町にピアノ店があったようだ。ザウターと何かしらの関係があったのかもしれない(今度ザウターさんに聞いてみよう)
始めてこのピアノの蓋を見た時に、シュパイヒンゲンの思い出を語りながら、このピアノと先生との出会いの経緯を伺った。
ピアノの製造番号から60年代半ばに製造されているので、当時であれば新品同様の中古、若しくは長期展示品と言った掘り出し物だったのだろう。
知り合いのドイツ人の楽器店主にピアノ購入の相談したら、凄く良い物があるから一度見ないかと誘われ、延々と車に同乗した末、田舎町にあるこのピアノに出会ったそうだ。いかにもドイツ人らしい。
特に高音を弾いた時、透き通る粒だちの良い響きに感動しS社のピアノにしようか、と思っていらっしゃたのをやめ、このピアノにお決めになったそうだ。
ところが日本に持ち帰りしばらく使っていると響きが思い出の物とは違う様子に変わってしまい。特にオーバーホールをしてからは響きが違う!と調律師に訴えても伝わらずで、大変がっかりされていらっしゃたそう。そんな時に別のM音大の先生から自分を紹介され、最初にドイツで聞いた響きに戻して欲しい。。となった。
その修理でハンマーが、ベヒシュタインタイプとは異なった物に交換されてしまっていた。
なので、そのうちハンマーをベヒシュタインの物に交換した方が良いでしょう、と話しながら調律の後に整調と整音を繰返しおこなっている。
最近、前の響きに近くなって来た感じがする、と言ってくださるようになった。
でもいずれハンマーを純正と交換したい。 オーバーホールで取り替えられたハンマーが少し大きすぎるのだ。。。
Herr Weiss, Ich weiss wie er sein soll…