今回このレーベルからの発売に変わったと言う事で、発売タイミングが遅くなり2枚同時に発売になったそうだ。
その試聴CDが昨日手元に届き、ようやく今自宅でゆっくり聴くことができた。
客席ではなく、ステージの上で聴くピアノサウンドがスピーカーから流れ、一年前と半年前の録音の光景が目の前に再現された。
CDのライナーノーツに評論家の伊熊よし子さんが以下のようにお書きになっている:
「・・・ベートーベンの描きたかった壮大且つ情感豊かな音の絵が、聴き手の目の前に絵巻物のように広がっていく。近藤嘉宏のベートーベンを聴く、それは作曲家と作品に近づくこと。ベートーベンの深遠な音楽の森に彼は聴き手をゆっくりと誘い、森林浴をするような、あたかも魂が浄化するような気分をもたらしてくれる。」
ここに伊熊さんは、作曲家と作品に近づく事、と表現していらっしゃるが、ベートーベンがピアノの為に創作した全ての音に役割を与えた響きの流れは、他の通常の音源から体験するそれとは異質であり、とても新鮮に聞こえる。
今のスタンダードな響きとはまるで違う雰囲気に驚かれるリスナーも多いと思うが、僕はこの方がドイツらしく、そして何よりもベートーベンっぽさを感じる。
又、CDの解説の中に、作品のプロデュースをされているギタリストの鈴木大介さんが:
「今までのイメージからは考えられないような、冒険的な解釈や厳しく浸透した表情が見え始め、受けとめる私たちにある種の驚きさえ与えることもいとわない演奏になっています。周囲の予定調和な期待から自分を追い出すような苦闘の末に、彼が到達しつつある戸口の精神的境地を、納得のいく方法で録音したい、これがこのプロジェクトの出発点でした。」
とお書きになっている。
フォルテピアノでのベートーベンソナタの演奏を何度か体験しているが、このCD製作に使用しているモダンピアノのベヒシュタインの透明な響きの背景に、200年前のドイツの響きが見えてくるような気がする。
20世紀のスタンダードな感覚に対し問題提起をしているようにすら感じる演奏と録音だ。