ピアノの機械の部分、アクション部分は、ピアノメーカーが自社で製作するのではなく、アクションメーカーにピアノメーカーがスペックを出し、その独自の寸法に合わせアクションメーカーが製作する。
ピアノ弦を叩くハンマーもそうである。
ベヒシュタインを始めとするドイツのピアノメーカーのほとんどが、アクションはレンナー社へ注文し、ハンマーはレンナー社とアーベル社の双方に注文している。
そのドイツを代表するピアノパーツメーカーの2社の方々を、日本で部品を取り扱う会社がお呼びになり、日本ピアノ調律師協会がその両者の技術セミナーを主催した。
ユーロピアノが扱う取引先では無いのだが、ドイツ語の技術セミナーという事で自分にお呼びがかかり、ちょうど一週間前、名古屋でスタートした研修会から大阪、そして東京での通訳のお手伝いをさせていただいた。
ハンマーメーカーのアーベルさんは、外国人相手のセミナーに慣れていらっしゃるようで、余計な事を言わず淡々と技術的な内容をお話しになるので、僕の脳もヒートアップせず、淡々と無難に通訳ができた(と思う。。)が、レンナー社のシュトックレさんは、ドイツの友人とのダベリングを思い出させる、懐かしい単語たちがちりばめられた文章が時々出てくる気さくなドイツ語を話す方だった。
日本語にどのように置き換えればいいのか悩んでいるうちに次の言葉が出てくるという感じで、久しぶりに僕の脳みそは、あっちこっちへ思考が目まぐるしく行き来しはじめ、あっという間に汗だらけになった。
しかしながら、ドイツに長くお住まいだったり、ドイツ語を学問としてまじめに履修した方々からすれば、僕のドイツ語力はまだまだ稚拙なレベルであることは間違いないのであるが、専門用語というのは、一般的な単語の意味からはすぐには理解できないから、僕のようなものが通訳する事になるのであろう。
例えば、鍵盤の深さの事を、日本の専門用語では”あがき”という、そこはドイツ語ではTiefgang (深い動き)となるのだ。ハンマーの鍵盤運動との離脱の事を、日本語では”接近”といい、ドイツ語ではAusloeseとなり違う意味になる。
という感じで、一般的な感覚では思いもつかぬ意味に変換しないとならない。
具体的な意味が理解されるまで、別の言語に変換するのに思いもよらぬ時間がかかってしまう訳だ。
通訳をするといつも感じるのだが、言葉と言うのは、心の中にある概念を相手に伝えるという事であり、相手の概念=コンセプトは何か、を先ず概念として僕の頭で理解しないと、言葉の変換が困難になる。
ドイツのピアノ部品メーカーにはいつまでも元気に活躍し、ドイツピアノメーカーの伝統技術をしっかり支えてもらいたい。きっと、研究会に参加された方々の多くは、同じように感じられたのではないだろうか。