と言っても、10年程前に体験した事。
今回のstepping up to the upright キャンペーン
を打ち出すにあたり、パワーポイントでプレゼンテーション資料を作った。現代のピアノに対する一般的な価値感に対するアンチテーゼだが、その価値感をとても肯定していた時期と、そうでなくなったターニングポイントが実体験からでてきている。その、ターニングポイントの大きな要素の一つになった面白い経験がある。
ある大手メーカーの、デジタルピアノの商品開発の現場に立ち会わせていただいた経験がある。
その商品開発に携わっていらっしゃったエンジニアは、とても理数的にロジカルで、古典調律の概念迄よく理解されている天才肌の人だった。
サンプリングデーターを、与えられたチップの容量で何処迄有効的に料理できるか、音像をどう変化させられるか。など、話を聞きながら色んな音の可能性を彼に見せていただいた時はワクワクした。
その、商品開発の現場は、昔、とても高価なシンセサーザーだった、Kurzweil(カーツェル/クルツバイル)やフェアライトのサンプリングサウンドを、20年程前に都内の録音スタジオでポピュラーバンドの録音で体験した時を思い出す、(感動してしまう)とても好奇心おう盛な自分の興味が満たされるインパクトだった。
その現場には、アメリカから僕も知っている有名なポピュラーミュージシャン(ピアニスト)が招かれていた。又、ヨーロッパ各国からも本当に素晴らしいミュージシャン達が集められていた。ポピュラーだけでなく、クラシックのピアニストも。
で、エンジニアの作った音のサンプルが何パターンか作られ、10人近くいるミュージシャンが実際にその音源を弾き、聴き、体験させられた。
それから、何処が良い悪いの議論が始まった。Aさんは良くてもBさんはそれを否定したり、人によって様々な意見が面白かった。彼らの殆どは、今誰が弾いているのか目を閉じて聴いていても明らかに解る個性的な音楽を奏で、僕は、どの人の意見が採用されるのか楽しみだった。
しばらくしたら、アンケートが始まった。
そして、そのアンケートを元に、夫々のミュージシャンが書いた否定要素を修正する作業が始まった。
作業が進行していくと、、、、
何とも普通な、自分にはとてもつまらない音源ができ上がった。。。
あるミュージシャンはその音を聴き
「一体自分は何故ここにいるんだ?帰りたい!」
と怒り出した。
これが、大量生産の為の楽器を作るプロセスなのか。。。
ベヒシュタインの工場や、マイスターシューレで教育されたヨーロッパのピアノ造りの感覚との対照に驚き、楽器造りのコンセプトの違いを目の当たりにした。
有名なピアノ設計者の故クラウス・フェナー氏が、マイスターシューレーで特別講義をして下さった事がある。その際、
「自分は、日本を始めアジアの大手ピアノメーカーに招聘され、何度も彼らの設計に携わった事があるが、量産品のピアノと良いピアノの設計概念は違う」
と言う事を、お話しになっていた。
僕は、フェナー氏の講義を受けた数年後のこの体験で、彼が言わんとしていた事が消化できたような気がした。