第3回ノアンフェスティバルショパン ピアノコンクール:第2回受賞者レポート②

2019年12月3日(火)

前回のレポートに続けて、今回はショパンナイト賞 受賞者の後藤アリサ優子さんのレポートをお送りいたします。

 

体験レポート:2019年10月ショパンナイト参加 後藤アリサ優子さん(2018年ショパンナイト賞受賞)

ショパンナイト賞受賞者として演奏させていただいたノアンの古城でのコンサートは、振り返ると、あんな素敵で貴重な体験ができたのかと不思議に思うような一日でした。この機会をくださったアンリ先生、ベヒシュタイン・ジャパンには本当に感謝いたします。

コンサートの前日は天気が悪く、練習に行くと、自然に囲まれた雨の中のシャトーのたたずまいが何とも言えずロマンチック。会場には、19世紀製のプレイエルとシュトライヒャーが用意してあり、どちらも試してみてからショパンに似合う方、と思ってプレイエルを選びました。

 

プレイエルというピアノは、いつもの黒い大きい現代ピアノで弾くのと違った弾き方、表現の仕方を求めてきました。もっと間を取ってみて。ここの和音は分散でどう。ペダルでもっと色々実験してみて。もっと力を抜いて・・・といったふうに。中音域では、メロディーを弾くとほとんどひとりでに、はっとするほどカンタービレでチェロのように歌ってくれる。ショパンの曲がどんどん違う風に聴こえてきました。

とても2日間の練習で知り尽くせるピアノではなく、コンサートの本番になると聴衆も入り、照明と暖房と演奏の興奮とで会場も練習のときとはまるで違うホールに変身するので、ピアノの感じがまた少し違って、こういう音も出るんだ、この曲はこう弾くこともできるのかな、と新しい発見があったりしました。

心から音楽を楽しもうと聴きにいらした聴衆の方々に囲まれ、窓からは牧歌的な風景が見えるシャトーで、歌うような音のピアノで大好きなショパンを弾く、まさに至福のときでした。緊張や興奮と幸福とが混ざって本当に忘れがたい思い出となり、もっといい演奏ができるように頑張らないとというモチベーションにもなりました。

 

フランスらしいお洒落なディナーの後でアンリ先生の演奏があって、聴いていると目から鱗がばらばら。私が試したときにはコントロールしにくく、ショパンよりはベートーベンの音楽が似合うと思ったシュトライヒャーのピアノで、ショパンの大円舞曲などに華やかに大胆に息を吹き込む。ノクターンOp. 48 No. 1が特に感動的でした。コンサートが終わって前庭の森と門を車で抜け、ショパンの時代は馬車でここを走ったのか、と想像を巡らせながら時計を見ると、夜中を過ぎて10月17日、ショパンの命日になっていました。

 

写真提供:大倉 景子