【連載】ベヒシュタイン物語 第一楽章 創立者カール・ベヒシュタイン

9.《ヴァグナーからの手紙》
ビューローの推薦により、ベヒシュタインはその後まもなく、バイロイトの音楽監督リヒァルト・ヴァグナーにグランドピアノを贈ることになります。そして、ヴァグナーから心からの感謝を表す直筆の手紙を受け取ります。
「1864年5月23日、バイエルン・シュターンベルグにて
謹啓
たった今、貴方から送られた美しくもすばらしい贈り物が書斎に届きました。
三年前、亡命生活からやっとドイツに戻ってきて、ヴァイマールにいた友人リストのもとに短い間滞在していましたが、ある日そこで、クリスタルのように澄ん だ心地よい音のグランドピアノに出会い、非常に喜びを感じると同時に私はその虜になってしまったのでした。そして、そこを発つ際に、このピアノと別れなけ ればならない悲しさに沈んでいた私に、希望を持たせようとしてくれた私の忠実なるハンス・フォン・ビューローに、“この先行くところにもこれと同じ楽器が あって、同じように元気づけてくれればいいのだか”と伝えたのでした。
その後三年、ドイツに戻ってきたことをずっと後悔し続ける辛い日々の後、天が突然に、若くして統治者となったバイエルンの王子を私の生涯の庇護者とし、 力強い友とならしめました。私は落ちついて学想を練ることに専念でき、作品を上演する費用の心配もいらなくなりました。王子の庇護の下で、長年捜し求めた 安らぎの地がそちらのほうから私に向いてくれ、さらには王子の次に貴方が私のこの地での創作活動に、欠くことのできないすばらしい楽器を贈って下さったの です。
私の願いは意外にもかなえられてしまったのです。喜怒哀楽の激しい若い王子と並んで、貴方はできる限りの最高の手をさしのべてくださり、そして、私が最 高のものをつくる手助けをしてくれようとしている。その貴方の手を感動に満ちあふれたこの手で握り、感謝の意を込めて貴方を抱きしめよう。
心から敬意を表して、貴方に永遠の友情と称賛をこめて。私のような者にこのような喜びが与えられるということは、私がこの世にとって、何らかの価値があるということなのでしょう。
敬具
リヒァルト・ヴァグナー」
つづく
次回は
《ルードヴィヒ二世との交流》
をお送りします。
向井

 

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バイエルン州立図書館所蔵のヴァグナーからカール・ベヒシュタインへ宛てた直筆手紙

詳しくは以下のリンク参照。

http://www.europeana.eu/portal/record/9200386/BibliographicResource_3000045467471.html

 

 

注:この内容は1993年発行のベヒシュタイン物語(ユーロピアノ代表取締役 戸塚亮一著)より抜粋しております。なお、この書籍 の記載内容は約20年前 当時の情報を元に執筆しておりますので、現在の状況・製品仕様と異なる点も多々あります。予めご理解頂けますようお願い申し上げます。