はっと気がつくと、すっかり今年も2週間が経過いたしました。
月日の経過するのは早いものです。私にとって元旦から今日までの2週間は、ほんの一瞬でした。この調子で月日が過ぎて行けば、今年もすぐに年末がやってきてしまう。そして、すぐに数年が経過してしまう。
松尾芭蕉も
月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。
などとおっしゃっているようですが、まさにその通りだと思います。時間の流れは無常で、こちらの事情など何も考えずに過ぎていきます。まあ、そのおかげで、生きてさえいれば明日は来るのですが。昔の人はいいことを言うますね。
私も、気がついたらドイツ出張に行ってからすでに一ヶ月以上が経過してしまいました。だから段々と忘れてしまっております。
よく、田舎町なんかを形容するときに「時間の流れが止まっているようだ」なんて形容されますが、あれは全くの嘘っぱちで、いついかなるときも時間の流れは、止まることなく進んでおります。
ベルリンは上記の逆で「時は進んでいるんだな。」と実感させられる街でした。ベルリンは常に変わってきたんであろう、時間が進んでいる街だという印象を受けました。都市として、現在進行形の街なんだろうなぁと実感させられることが多かったです。
たとえば、ブランデンブルグ門のような歴史的建造物の真横にスターバックスコーヒーがあったり、街のいたるところに、現代風の新しい建造物が建っておりました。ベルリンだけでなく、今回行ったドイツのどの都市にも言えることですが、常に工事をしているような印象を受けました。まちのそこらじゅうで工事をしている。道路工事や、建物の修復・改修工事。
ドイツの方々は工事が好きなのでしょうか?そういえば、ドイツには、有名な重機のメーカーが幾つかあります。あれだけ工事ばかりしていると、なるほど、重機が必要になります。日本と違って、石畳の道なんかも多いですから、それなりに日本と違った重機が必要になるのでしょうか。
ベルリンはその意味でも、常に変化してきたであろう街でした。
ベルリンの街を一番象徴していたのは、ドイチュオーパーだったと思います。
タンホイザーを観たのですが、斬新な演出、無機質な舞台装置など、ああ、これがベルリンの街を象徴しているんだなぁと思わされました。
また、十羽一絡げにしてしまいました。
しかしながら、誤解を恐れずに言うと、あのベルリンの街だからこそ、あの斬新な演出のワグナーが映えると感じたのです。逆に、あの現代的なベルリンの街には保守的な演出の古き良きワグナーでは、聴衆は満足しないと感じました。
私は、普段あまりDVDやらYouTubeでオペラを見たりはしないのですが、過去に何度かタンホイザーをDVDで見たことがあります(1度だったかな)。その演出も、現代的なもので驚きました。
確かに、お話は肉欲の世界に溺れている放蕩者が、故郷に戻って、追放されて、最終的に恋人の死をもって赦されるというだけのお話なので、舞台設定をどのようにしても構わないのでしょうが、それでも、吟遊詩人やら、騎士やらそういう商売の方々は今現在おいそれと見かけることはございませんから、あまり斬新な演出にするとやっぱり無理が生じます。
その無理を承知で、舞台を現代にしてみたり、騎士の衣装をSFみたいにしてしまうのもありでしょうが、今回ベルリンで観たタンホイザーは衣装なんかはオーソドックスな騎士の衣装で、時代背景もなんとか中世の雰囲気を残しておりました。まぁ、私自身中世に行ったことがあるわけではないので(ドラえもんではありませんから)はっきりとしたことは言えませんが。
今回ベルリンで観てきたタンホイザーは、衣装や時代背景が中世でも、舞台装置の使い方が激しく(スーパー歌舞伎みたいでした)、最後のシーンでは舞台照明の装置がわざと見える位置に下ろして上映したり、なかなかキレッキレの演出でした。私の語彙が少なく、なかなかうまく伝えられませんが、凛としたタンホイザーでした。
上記のタンホイザーに象徴されるように、ベルリンは所謂「古き良き街」ではなく、「常に変化し続ける街」と言う印象を受けました。
私の知らなかったドイツの風景です。
そんな中で訪れた、Bechsteinのベルリンショールーム。舶来品の高級家具屋が密集する商業ビルの4階です。ベヒシュタインの様々なモデルが数台ずつ展示されているだけではなく、最新式の消音システムを組み入れたピアノや、フランツリスト本人が愛用したピアノ、フルトヴェングラーが愛用したベヒシュタインが展示されておりました。
ショールームは3部屋に分かれていて、ホフマンの部屋と、主にベヒシュタインプレミアムが展示されている部屋、ベヒシュタインマイスターピースが展示されている部屋となっておりました。
ピアノの展示台数も、各部屋グランドピアノ・アップライトピアノ合わせ25台以上でした。
ショールームには、新品のピアノだけでなく、ベヒシュタインで純正修理・調整されたC.Bechstein Model 3(100年ぐらい前のピアノです)が展示されておりました。もちろん、ちゃんと楽器として弾くことができます。完全な状態に再生されているとのことです。
今回の旅行に参加されたピアニストの方がその古い楽器と、新品のベヒシュタインをどちらも試弾されておりました。たしかに、古い楽器は現代のベヒシュタインの音とは違う響きでしたが、なるほど、ベヒシュタインのピアノはああいう楽器が進化して今の音にたどり着いているんだと感じました。
古い方がいい、新しい方が良いという問題ではなく、脈々とつながる楽器の歴史の中で、それぞれの時代のニーズに合わせて、その時の技術の粋を集め完成された楽器がベヒシュタインだと思います。
あの、100年以上前の楽器も、100年前は最新の技術によりつくられた楽器なのでしょう。あの楽器の音色からは100年前の音楽のあり方が、あの楽器を通して伝わってくるような気がしました。また、現代のベヒシュタインからもまた、現代に住む私の耳により再構築された古き良きベヒシュタインの音を思わせる響きも聞こえてきました。人間の感覚は不思議なもんです。普段、ただピアノの音を聴く時に、古い時代の楽器はどんな音をしていたかなどはあまり気にかけないのですが、実際に100年ほど前の楽器の音を聴き比べると、現代の楽器から鳴る音の中に、古い時代の楽器から継承されてきた音が聞こえるような感覚になります。
これは、どんなピアノでも、そういう要素が含まれているのでしょうが、やはり、同じベヒシュタインの楽器だけあって、妙な説得力がありました。
ショールーム見学のあとは、ツアー参加者の皆さんとベルリン市最大の書籍店に行きました。ドイツ語も読めないくせに、古楽器についての資料集を購入いたしました(なるべく挿絵が多そうなやつを中心に)。
ベルリンには、私が好きな出版社が何軒かあるので、実際はもっとゆっくり見ていたかったのですが、時間の都合上、本屋には約1時間の滞在でした。
ベルリンの街の他の楽器屋さんもじっくり見に行きたかったのですが、 時間の関係上2件ほどしかまわれませんでした。
まあ、2件だけだったので、何も買わずに済みましたが、もう一軒ぐらい行っていたら、きっと手ぶらでは出てこれなかったと思います。ベルリンのヴィンテージギター屋のお兄さんがとても良い人だったので、話だけ聞いて何も買わないで帰るのも良くないと思い、日本でも買えるベルデンのケーブルを買って帰って来ました。日本で買う価格とそんなに変わらなかったですが。自分へのお土産です(自分へのお土産ばかり買ってきたような気もしますが)。
今回も、最後まで読んでいただきありがとうございます。