先日、日比谷セントラム東京のホールで、Hさんの門下生発表会がありました。
その際にHさんがD282を弾いて「とても弾きやすいわね」と。Hさんがいらっしゃるとは思ってもいなかったため、だいぶ前に某会館で、Hさんがベヒシュタインを弾いた際、自分が調律したことを思い出しました。
「あの時はピアノの状態や会場の響きがあまりよくなく、弾きづらかったのでは?」とお聞きすると、「そうでしたね、でも本番は意外と弾きやすかったのよ」とおっしゃってくださりとてもうれしくなりました。
はじめはHさんについてよく知りもせず、ピアノや会場についても「雨だし、動きも今ひとつ、それに鳴りが悪いな」とちょっとあきらめていたのですが、リハーサルをずっと聞いていて、ドビュッシーやフォーレの曲をどう表現しようか、音をぼやかしたり際立たせたり、タッチだけでなくペダリングも何度も試したりしているのを見聞きしていて、「こりゃすごい、気合いを入れ直さないと」と。
Hさんの経歴を見ると、J.ユボーの弟子でフォーレの日本での権威とも。だからというわけでもないですが、リハーサル後の直しはさらに緊張しました。まずはミスのないようにアクションの動き、ネジの確認。調律のなおしはほどよく弾かれた感じを損なわない程度にとどめました。
本番ピアノはさらによく響いてくれた気がしましたが、とても苦労されたのでは?という思いがぬぐえぬままでした。なので、先述の「意外と弾きやすかった」という言葉は、楽器やその場所の響きにリハーサル時に慣れて、けっこう弾けたということなのだろうなと一人解釈しました。
ピアニストは相当のこだわり屋(心配症?)でない限り、自分の楽器を運んでコンサートというわけにはいかず、そこにある楽器でどうにかしないといけない。だからといってその出来不出来を楽器のせいにもできない。ちょっとかわいそうな存在ですが、そのために技術者が存在するのだと思い、日頃からいろいろと経験を積んでいくのだと改めて肝に銘じたのでした。