世界三大ピアノメーカーの謎

2022年3月25日(金)

 

以前弊社のオウンドブログに掲載したものをこちらに再掲載いたします。

「世界三大ピアノメーカーの謎」 2021.10.10

「ベヒシュタインは世界三大ピアノメーカーの一つです」とカタログやチラシにある文言、普段あまり気にもしないでお客さんとも話しているが、いったいいつ、誰が言い始めたのだろうか?

よくあるのは、ベヒシュタインを日本で売り込むために、メーカー主導で用いられたというケース。結論から言ってしまうとこれが一番有力説ではないかと私は思う。

私が大学を出たころに購入した「200CD ピアノとピアニスト」(立風書房1996)には、「コンサート用ピアノの二大銘柄」としてスタインウェイとベーゼンドルファーが挙げられていた。吉澤ヴィルヘルム著「ピアニストガイド」(青弓社2006)に、様々なメーカーごとでピアニスト分類がされていたのは、真偽はともかくとして面白い試みだった。

反論を承知で申し上げると、極端かもしれないが、20年くらい前の日本ではピアニストや業界人、留学経験のある音大生、一部のピアノマニアしかベヒシュタインを知らなかったのではないか?と。だから私がユーロピアノ(ベヒシュタイン・ジャパンの前身)に入った頃、上述の文言は、いつ誰が言い始めたのかと気になっていた。海外でTop 10 Piano makersというのは見つけたが、「世界三大○○」というのはあまり目にしない。

以前自分のプロフィールかブログかで書いたかもしれないが、私は調律の勉強を始めるまで、ベヒシュタインの「べ」の字も知らなかった。専門学校時は、ドイツの老舗メーカーの一つ、H.V.ビューローがストラディヴァリウスに喩えていたというくらいの知識しかなく、当時池袋サンシャインで開催されていた楽器フェアで見たのが初めてだった。その時は、シュタイングレーバーというこれまたドイツの老舗メーカーのフルコンにしびれた記憶しかないが、とにかくベヒシュタインを見た、触ったという感じだった。ベヒシュタイン・ジャパンの現会長戸塚亮一氏の「ベヒシュタイン物語」(南斗書房 1993)は、日本語で読める数少ない資料としてとても面白く読んだ記憶がある。以後インターネットの普及で非常に多くの情報が得られるようになったのは本当にありがたい。

ドイツに行って(2003~)働き出してから、ベヒシュタインの歴史や業界での位置づけを本格的に知るようになった。とりわけフランクフルトでのムジークメッセでの存在感は驚きだった。とはいえまだホールに当然のように入っている(かつては入っていた!しかし使われなくなっていた、が正しいと思う)というわけでもなく、録音も少なく(知られているものでは)、日本では有名ピアノメーカーと言ってもなかなか出てこない名前だったと思う。むしろ杵淵直知氏、斎藤義孝氏らの著作でグロトリアンの方が知られていたかもしれない。ベヒシュタインの1960-1980年代の経緯を考えると仕方ないことか。

そもそもこの「大」が単に規模の大きいということならヤマハ、カワイという日本の誇るメーカーがその地位にあるわけで、有名度で言ってもこの2社は外せないだろう。何をもって「大」と定義するのか?人それぞれと言ってしまえばそれまでのことだが。

“PIANO BUYER”というアメリカの雑誌がある。一部ネットでも見られるが、そこにいろいろなメーカーのランク付けが載っていることがある。第1カテゴリーには、ベヒシュタイン、ブリュートナー、ベーゼンドルファー、ファツィオリ、シュタイングレーバー、スタインウェイ(ハンブルク)の6メーカーが載っていた。ピアニスト、ピアノ業界の人、ピアノマニアの方は当然知っているのではないか?という名前です。

今は便利になって、いろいろ検索すると、三大メーカーはだいたいスタインウェイ、ベーゼンドルファー、ベヒシュタインとなり、その3番目の地位は不動のようだ。中にはベヒシュタインではなくブリュートナー、ファツィオリなどを入れている場合もあった。数字として2より3の方が語呂として座りがいいということはあるから定着しやすかったのか? 三位一体、御三家、「石の上にも三年」、「仏の顔も三度まで」など日本では特に3は好まれる。(余談で、最近某テレビ局が「世界三大○○」にもう一つ加えて「世界四大○○」を決めようという内容の番組をやっていて面白かった。)

ベヒシュタインは今やデジピキーボードメーカー(カシオ)にも音源がサンプリングされるまでになり、TVのCMでその名が流れた時には内心興奮した。この20年で国内の知名度は一気に上がってきた感がある。ベヒシュタインの素晴らしさが地道に伝わってきたということが一番ではあるが、他にも業界のいろいろな事情が作用しているのだろうか。ベーゼンドルファーがヤマハ傘下になったり、他のドイツ老舗メーカーのオーナーが中国系企業になったり、少子高齢化のスピードの速まりによるピアノ販売減少、日本メーカーの国内減産など。

かつては韓国のピアノメーカーと資本提携してはいたものの(2008年に解消)、確実に販売台数を伸ばし、市場での全価格帯を網羅するそのバリエーションの豊かさで、ベヒシュタインは虎視眈々とその三大メーカーの2番目を狙っている!(と言ってもいいですか?)

「世界三大メーカー」、ほんとに誰が言い始めたのだろう?

どなたかその真相をご存知の方、「こうなんじゃないか?」という説をお持ちの方、ご意見などお寄せください。

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