9日の夕方、調布の音楽大学での仕事を終え、フロントグラスに当たっては溶ける牡丹雪を見ながら、3月の名残雪になるのか、、、と思いながら八王子工房へ向かい車を走らせた。
翌日の準備と、山のように溜まった事務作業を終え、いざ帰宅しようとドアを開けると、ロマンティックな感じだと言えない大雪になっていた。
「明日、近藤嘉宏さんのレコーディングで楽器を運ぶのに。。」
今回の録音は、ベートーベンの全ピアノソナタ録音プロジェクトの3回目。
翌朝、いつもより早く出勤してくれた工房のK君からのメールで、7時前には運送屋さんがピアノを引き取り、無事出て行ったという事を確認できた。
9時に所沢ミューズに搬入なので、交通機関もいつもより動きが悪い事を想定し、いつもより少し早く、雪の積もった自宅前の小道を雪に足を取られながらバス停に向かった。
雪の積もった八王子の朝は、いつも以上に寒く感じた。
所沢は、八王子ほど路面に残っている雪は少なかったが、ホールに搬入されたベヒシュタインD-280は約2時間の運搬時間だったにもかかわらず、冷凍庫の中から出したばかりの食材の如く冷えていた。
冬のピアノ移動では何度も痛い思いをしている。一番怖いのは、鉄骨と弦の結露だ。なので、ピアノの蓋は空けないで徐々に温度にならす事にした。1時間半待ち鍵盤蓋だけを先ず開けさらに30分そのままに。
11時過ぎに漸く恐る恐る大屋根を開ける。
ドキドキしながらピッチを見る。
工房でNさんがやってくれた442Hzピッタリだった。胸を撫で下ろし、運搬によって生じたむらを直す。
昼過ぎに音出しが始まった。中期のソナタから始めた第一回、第二回の録音だったが、今回は中期と前期の録音だ。
先ずは、前期のソナタから録音開始。
途中何度か調律の直しを入れていたが、夕方になったところで、ダンパーペダルをそっとおろした時、一つだけ音の止まりがどうにもうまくいかなくなった。
急激にピアノを冷やし、そして暖房の中で暖まった事が原因でフェルトが少し膨らんだようだった。冬場の移動は思いがけないトラブルを誘発する。
いつの間にか、ディレクターのギタリストの鈴木大介さん、録音技師のみんなが集まっていた。
ダンパーフェルトを加工し、そ~っとダンパーを戻してみる。
皆の耳が音に集中しているのが解る。。。。。
いい感じで音が止まった。
ベヒシュタインは、鍵盤を戻したとき、ピタッと音を止めるのではなく、ふわっと止まるようにするため柔らかいフェルトを使っている。なので、温度の急激な変化に反応したのだろう。
昨日は雪の為ドキドキの一日だったが、二日目の今日は、D-280は環境になじんでくれたようで快適にいい感じに鳴ってくれた。
さて、明日一日もうひと頑張り。アパッショナータの録音が残っている。