設計

2015年4月12日(日)

先日新商品として日本デビューとなったW.Hoffmann Professionalの設計は、ベヒシュタインの今までのアプローチを異にする部分が見受けられた。
設計を考えるに、ネーミングからのこのピアノのコンセプトを考えた。W.Hoffmann Traditionは、そもそも、Professionalなユースも視野に入れてある。ここで言う所のProfessionalの意味は、比較的リーズナブルな価格でありながらも、職業音楽家がコンサートやリハーサル室など容積のある空間で、ある程度の人数を前にしたパフォーマンスをする場合に使用できる。という意味で捉えるとこの設計は腑に落ちる。

こじんまりした空間で音楽を造るというより、人に向かって音を飛ばす。というのに適した響きだ。響きが太く空間の中に広がっていくのを感じる。ベヒシュタインでは複数の音が同時に鳴るような場合、夫々の音が混沌としないような工夫として、響板内に伝達する弦振動が乱反射することによって生じる波の干渉を避ける工夫がなされている。なので響きの線は普段接するモダンピアノより少し細めになる。

又、ピアノの音源になる弦から生じる倍音のズレ幅が、若干多めになるように弦長と太さのバランスを設定した弦設計がなされている。その、少し大きめな倍音の非調和性によって生じる、差音と呼ばれる別の音が、響きの中に独特のうねり感を与える。この倍音作用も、音の分離感を高める要素の一つになる。

一方W.Hoffmann Professionalの場合、後者はベイシュタイン流の従来の発想に基づかれたデザインだと感じたが、前者を異にするものだった。今までは響板内での震動波の乱反射を避けるため、ベヒシュタインのグランドピアノの場合、メインリブ、アップライトピアノの場合除響板が、弦振動を響板に伝搬する役割を担う駒に平行する位置に取り付けられていた。

Bechstein Resonanzboden

グランドピアノのそれは、1800年代前半に製造されたプレイエルにも見られる構造で、当時良しとしていた響きを実現する意味で、適した構造だったことが伺える。内声の動きを音楽的に語るには、響きの混沌は表現の妨害になるからであろう。

Pleyel Resonanzboden

W.Hoffmann Professionalは、メインリブや除響板構造に代わりresonance barと呼称される棒をメインリブや除響板の位置の響棒(rib)上に取り付けた。
このコンセプトは、震動波の反射と、響板全体の大きな振幅を実現し易くすることにあると考えられる。しかし、乱反射する震動波も従来の構造と比較した場合、多く生じる事になる。どんな響きが生まれるか想像できるだろう。

Rosonance bar

クラシック音楽の同じ曲でも多様なパフォーマンスがあり、又、演奏される会場によってもパフォーマンスが変化するからこそライブ演奏表現に芸術性を見出し、録音とは違う感動を覚える。如何なる場所においても、同じような表現が単純に繰り返されているところに、心に響く感動は覚えないだろう。
ピアノは音こそは用意に鳴らせるが、指揮者のように同時に色んなことを考えないとならない分、表現する上でとても大変な楽器だと思う。しかし、弾き手が同時に聴き手にもなり、客観的に自分が描く響きの絵画を見るという意味において、弾き手の多様な美しい響きの経験は表現をする上で意味が大きいと自分は思いたい。

そんな事を、ベヒシュタインのこの新しいシリーズに触って感じた。