私は古典からロマンの楽曲を特に好んで聴く。
バロックや近現代が嫌いというわけでは全くなく、古典からロマンの音楽の中にある、異なった声部の対話に魅力を感じる場面が多いからだ。
主役である主旋律にまずは注意が向くが、主旋律に呼応する旋律やモティーフが絡み合う場面が出てきたりする。感動する時は、この絡みが音楽に奥行きと広がりを与えてる場面だったりする。
人に何かを訴えるとき、大きな声で話す場合が一般的かもしれないが、会話の中で対話している相手に本当に注意を向けるときは大声ではなく、かえって声を小さくしたり、抑揚であったりする経験は誰もが持っていると思う。
音楽の動きの絡みの意外性や変化に気付いたり、その対話が生み出す色彩感、ハーモニーが生む緊張感と緩和による響の立体感を感じる時、私は音楽に吸い込まれる。
そのような音楽の対話を演奏表現で求める場面は、室内楽の演奏にほぼ例外なくあるのではないだろうか。
室内楽の場合、多種類の楽器を使用する。故にそれぞれの特有の音(声)があり、これらの異なった声の楽器の音楽的な対話が表現のベースにある。
ピアノは和声的な伴奏になることもあれば旋律を担うこともある。そうするとピアニストは必然的に音色を作り、音楽の抑揚でもって他の楽器との音楽的な対話を行う。
ベヒシュタインのピアノ製作のポリシーは、演奏者のそのような表現を支えられる楽器造りにある。
今度杉並公会堂でベヒシュタイン室内楽コンクールを行う。
ベヒシュタインのもつ表現の可能性をもっとも発揮でき、音色作り・響の立体感を、奏者も聴き手も感じていただき、音楽表現の可能性の再確認ができる場にしたい。という何人かの音楽家、会場、楽器提供側の願いが当コンクールの企画を現実のものにした。
コンクール予選はVTR審査ということが一般的に多いが、杉並公会堂ベヒシュタイン室内楽コンクールは、エントリーいただく方々はホールで演奏し、副賞はとても魅力的で、杉並公会堂での演奏会になっている。
音楽大学を卒業しピアノ教師をやっていらっしゃる方も年齢制限のないアマチュア部門でも応募できる。
第一回杉並公会堂ベヒシュタイン室内楽コンクールが、音楽の対話の楽しさを再発見できる場になることを主催者一同願っている。