「加藤君、僕のCPちょっと見てもらえないかな」
という電話を受けたのが、二週間程前の出張まっただ中だった。
「来週で良いですか?」
という返事をしてから10日が過ぎて、漸く息継ぎができ、深町さんに日程を決める電話をする事ができた。
お店に置いてあるCP-80は、過酷な状況で使われているのであろう、もうあまり待てない感じまで引っ張ってしまった自分に反省し、何とか日程を調整して、漸く昨日、祐天寺の深町さんの本拠地となるお店(ライブハウス)に行く事ができた。
深町さんの音楽に出会ったのは、高校の頃、井上陽水の「氷の世界」のキーボードがカッコいいなと思い、LPレコードのジャケットの裏で名前を認識したときだった。それから、10年近い時が流れ、前に務めていた会社で、MIDIをピアノにつけると言う事を、日本では一番最初に手がけていたある日、
「深町と言います。僕のCPにMIDIをつけられますか」
と、突然工房に訪ねていらしゃったのが、本人と初めてしゃべった時だった。
それ依頼、深町さんと色んな仕事をご一緒させていただいている。
赤坂の霊南坂教会での即興演奏の時、ピアノでベルクマイスターの音律での調律を提案させていただいたり、FM東京で、ベヒシュタインとベーゼンドルファーを使用した即興演奏の仕事をご一緒させていただいたり、自分の20代後半は深町さんから色んな音楽的な刺激を与えられていた。
CP-80と言うヤマハの電気ピアノも、今はデジタルピアノの出現でステージであまり使われなくなってしまったが、CPをピアノの代替え品と言う枠を超え、個性ある一つの楽器として自分のスタイルの中に取り込み、演奏表現をしているピアニストは、僕は深町さんを除いて知らない。
昨日も、
「普通のピアノは何処へ行っても弾けるし聴けるから、CPの方が良いんだよね」
と、さらっとおっしゃっていたが、僕にはその言葉は強く響いたし、勇気を与えられた。
同じであることの拒否と、自分のスタイルへのこだわり。
今日に残る、音楽家は皆そうだったんではないだろうか?
深町さんホームページ http://www.bekkoame.ne.jp/~cisum/