形あるいは名前 サロンでの出来事から思うこと Vol.3

2018年11月7日(水)

先日ヤノシュ・オレイニチャク氏が汐留ベヒシュタイン・サロンのスタジオで本番前の練習をされていた。スタジオから漏れ聞こえてくるのは、ショパンのワルツ。オレイニチャク氏の演奏と知らなければ、「ずいぶん個性的なワルツだなぁ」と思っていたかもしれないが、オレイニチャク氏がそこにいることを知っているため、「個性的だが、さすがポーランドの巨匠だなぁ」という感想を持つことになる。

菊池寛の「形」という短編があり、中学か高校の国語で習った記憶があるが、よく似たもの(こと)が世の中にはたくさんあるなぁと思いました。

その短編では身につけている鎧が目印で、敵はその鎧に恐れをなしていたというオチだが、「名前」というのも同じような作用をもたらす。

もちろんその演奏がある基準をクリアしているのは当然なのだが、姿形、名前を知らずに聞いたら、どれだけの人がその人の演奏を聞き分けられるのだろうか? そしてそれに自分できちんとした評価を下すことができるのだろうか? 自分はもちろんほとんどの人は無理だろう。好き嫌いを言うのはたやすくても、「これこれこういう理由で好き(嫌い)」と説明することは非常に難しい。

 

ちょっと話は変わるが音楽の場合、演奏だけでなくどのような楽器を使うか?というのも、「個性を表現する」のに悩むところではあると思う。さまざまな楽器を弾き比べて、もっとも自分に合う、自分の力を発揮できる、試せる、託せる楽器を探し続ける、そして見つけられた人は幸福だと思います。

形に騙されず、実際のもの(演奏)で判断できるようになりたいと思いつつ。

ちなみにオレイニチャク氏は映画「戦場のピアニスト」でピアノ音楽と演奏シーンを担当したピアニストである。