クララとは「アルプスの少女ハイジ」のクララではありません。もちろんゼーゼマン家にピアノはあったのではないかと推測(時代は1850-1860年ごろ?)しますが、今回のクララとは、R.シューマンと結婚してヴィーク姓からシューマン姓となったクララ・シューマンのことです。クララは「今日から私が弾くのはこのピアノだけ」と楽器店主に伝えたとか。そして彼女愛用のグロトリアンは現在ドイツ・ブラウンシュパイクの市立美術館お楽器コレクションとなっていると。スタインウェイとの親戚関係が取りざたされますが、個人的にアップライトピアノの良さは群を抜いていたと思います。
そのグロトリアンが2024年9月に倒産してしまいました。原因はさまざまあると思いますが、歴史あるメーカーが倒産というのは非常に残念なことです。日本ではレジェンド技術者の杵淵氏がその腕を磨いたメーカーとして有名で、自分も興味半分で滞独時期に工場を訪問したことがあります。Grotrian Str.という通りまであり、その地に根付いたメーカーなのだなぁと感じ入った記憶があります。しかし上記の「クララ・シューマン」に頼りすぎていた感があるかなとも思いました。
いくら有名なメーカーでも弾いてくれる人、購入してくれる人がいなければ存続できません。そして今ではオーナーの懐事情も大いに関係してきます。かつてはベヒシュタインもその感が個人的にはありました。リストやドビュッシーの名前だけでは弱いなぁと。もちろんピアニストや一般ユーザーにとって両名の作曲家・ピアニストの影響は大きいのですが。しかもこれまで設計の変更も多々あり、当時の楽器とはまた響きも変わってきている。(それはどこのメーカーにも言えることか)音の流行についていけず、取り残されてはいけない。現在は積極的な広告展開、よい音へのあくなきこだわりと追求、そして何よりこの時代のユーザーが何を欲しているのかを敏感に先取りし、そして流行を作り出すまでに至る道の上にいるのではないか?と感じている。「かつてクララの愛用したピアノメーカーがありました」とならないよう、この厳しい時代を生き抜いていくしかない。
次回は「絢爛豪華なピアノ」です。