こんにちは。ベヒシュタイン・ジャパンの加藤です。
私たちのデリバリーの拠点であり、ピアノの修復や調整の心臓部でもある「八王子・技術営業センター」。今回は、普段あまり公開することのない工房の裏側についてお話ししたいと思います。
修復の哲学──あえて「オリジナルを残す」という選択
ピアノは木材で作られているため、亀裂などが入らなければ、バイオリンのように半世紀、一世紀と長く使い続けることができます。ただし、フェルトや弦などの消耗品は「靴の裏底」のようなもので、一定期間使用したら交換してあげなければなりません。
工房では戦前に作られた100年以上前のグランドピアノも修復していますが、修理には大きく分けて二つの考え方があります。一つは、とにかく部品を新しいものに入れ替えてしまうという考え方。もう一つは、なるべく当時の状態を残して、消耗材だけを替えていくというやり方です。
私たちは、状態さえ良ければ後者の「オリジナルを残す」選択を大切にしています。不必要に入れ替えることはせず、当時の趣をそのまま残す方が良いと考えているからです。
例えば、古いピアノには鍵盤と上のメカニック(アクション)をジョイントする「アブストラクト」というパーツが付いていることがあります。鍵盤の動きとハンマーの動きがずっと連動するため調整は非常に大変なのですが、これを残してあげることで「指に吸い付いてくる」「弾きやすい」と評価してくださるピアニストの方が多いのです。現代の楽器の構造とはアプローチが違いますが、ヴィンテージの弾き心地を求める方のために、時間をかけて丁寧に調整しています。
サロン文化の中で生まれた、100年前の音色
工房で修復している100年ほど前のフルコンサートピアノは、ドビュッシーなどの印象派やロマン派後期の音楽家たちが実際に触れていた当時のベヒシュタインと同じ構造を持っています。
当時のピアノは、現在のように1,000人から2,000人を収容するコンサートホールで響かせるという発想では作られていません。ヨーロッパのサロン文化の中で演奏されることを想定して設計されているため、大音量ではなく、サロンの中でとてもいい感じで表現ができるような造りになっています。そうした響きを求めている方にはぜひおすすめしたい、歴史的にも非常に価値の高い楽器です。
この年代のピアノを修復する際も、響板の亀裂を同じスプルース材で埋め直したり、状態の良いブリッジ(コマ)やピン板はあえてオリジナルのまま生かすなど、気の遠くなるような細かな作業を経て、当時の姿と音色を現代に蘇らせています。
ドイツ本国と同じ品質を保つためのこだわり
修復や調整の過程で、低音の巻線(弦)を自社で製作することもあります。ドイツから弦を仕入れるのはもちろんですが、急ぎで弦が必要な場合や微調整のスペアとして、工房内にある機械を使って自分たちで巻き付けて作るのです。 その際も、ドイツの工場で使われているのと同じデーゲン社の銅線やレスロー社の芯線を使用しています。銅の純度は音に大きな影響を与えるため、素材選びにも徹底的にこだわっています。
また、工房内にはドイツの家具職人が使うカンナ台も置かれています。木材を挟んでカンナをかけたり、カンナくずが出しやすいように工夫されており、こうした道具の一つひとつにも本場の職人文化が息づいています。
時代を超えて受け継がれる手仕事
ピアノは無垢の材料がたくさん使われているため、季節の変化や湿度の影響で中身が0.1ミリ単位で動いてしまいます。そのため工房では、乾燥しすぎないよう加湿器でちょうどいい状態を保ちながら、日々調整を続けています。
新品の最終調整から、NHKホールなどで使用されるコンサートレンタル用ピアノのメンテナンス、そして100年前のヴィンテージピアノの復元まで。ただ部品を新しくするのではなく、そのピアノが作られた時代の文化や本来の良さを尊重し、次へと繋いでいく。八王子の工房では、今日もそんな緻密な手仕事が行われています。
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八王子・技術営業センターでは、記事に登場した中古ピアノの展示・販売を行っております。完全予約制でご案内しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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