伴奏が変わると、旋律の響きも変わる。イヴ・アンリ教授が解説するピアノの共鳴【第4回】

2026年9月30日(水)

旋律を美しく歌わせたいとき、私たちはその旋律を弾く指に意識を向けます。けれども、下で鳴っている伴奏も、旋律の響きに関わっているとしたらどうでしょうか。

イヴ・アンリ教授へのインタビュー第4回では、ピアノの共鳴を入り口に、ショパンとドビュッシーの音楽を取り上げます。ペダルを踏んだとき、同じ一音の周りで何が起きるのか。伴奏のバランスによって、上声の響きはどう変わるのか。私たちベヒシュタイン・ジャパンがお届けする今回は、アンリ教授が演奏を交えながら説明した、音の聴き方をたどります。

音を出して確かめる、ピアノの仕組み

 

レンツ:ベヒシュタインが持つ表現力や、音色の色彩の変化の可能性について、これまでたくさんお話しいただきました。ここで実際にそれらを体験するために、いくつか短い演奏を聴かせていただくことはできますか。

アンリ:もちろんです。感覚の赴くままにやってみましょう。私は今、このピアノを大きな喜びとともに探求しているところです。こうした話は理論ではなく、実際に音を出してこそ分かることなのです。

アンリ教授が最初に挙げたのは、ショパンの時代の楽器に接して抱いた疑問でした。音の力強さと、音が持続すること。その二つの関係を考えるところから、ピアノの仕組みへの理解が変わったといいます。

アンリ:まず、私が発見したことを少し実演してみましょう。ピアノの仕組みに対する理解を大きく変えた発見です。ショパンの時代の楽器は、それほどパワフルではありません。私は「どうしてこれほど長く音が持続するのだろう」と疑問に思っていました。それは、倍音の共鳴現象に関係しています。

 

ペダルを踏むと、一音の周りに何が起きるか

 

アンリ:ご存じない方や、意識したことがない方のために説明すると、ピアノにはたくさんの弦があります。ピアノには、弦を押さえるダンパーという仕組みがあります。通常の状態では、弦が常に振動し続けないよう押さえられています。

アンリ教授は、ペダルを使わずに一音を弾く場合と、ペダルを踏み込んで弾く場合を比べます。説明の中心は、弾いた音に他の弦の共鳴が加わることです。

アンリ:ペダルを踏まずに一つの音を弾くと、その音だけが鳴り、他の音は加わりません。しかし、ペダルを踏み込むと、すべてのダンパーが上がります。鳴らしている音そのものは同じですが、他の弦が共鳴振動を起こし、響きは格段に豊かになります。

ダンパーが弦を押さえている状態を、教授はまっすぐな音と表現します。そこからダンパーを上げると、同じ音でも響きが豊かになる。ペダルの働きを、音が長く残るかどうかだけで捉えていた人には、もう一つの聴きどころです。

 

伴奏の音が、旋律を生き生きとさせる

 

アンリ:ショパンは、この現象を利用して旋律に生命を吹き込みました。有名なノクターンなどはその好例です。

一音の説明から、ショパンの音楽へ。教授が取り上げるのは、伴奏と旋律の関係です。和音は曲の土台を作るだけでなく、別の音の響きにも影響する。その考え方を、ノクターンを例に説明します。

アンリ:伴奏の音すべてが旋律に良い影響を与え、旋律が驚くほど生き生きとしてきます。ショパンが選んだ音は、単に和音を作るためだけではありません。音をどのように配置するかで、別の音の響きが豊かになるのです。

アンリ:このピアノは決して大型ではありませんが、共鳴能力は実に見事です。実際に弾くと、伴奏の弾き方によって響きが変わることが分かります。もちろん旋律を弾いていますが、冒頭の旋律の音は一つだけです。

旋律の音が一つでも、下で弾く音との関係は変化します。教授が比べるのは、伴奏との関係をあまり意識せずに弾いたときと、伴奏のバランスを通じて上声の響きを聴いたときです。

アンリ:下で弾く伴奏のバランスによって、上声の音がどのように響き続けるかを意識すると、同じ音楽でも、響きがまったく違ったものになります。

旋律をどう弾くかという問いに、伴奏をどう弾くかという問いが加わります。練習するときも、旋律と伴奏を別々に整えた後、二つが重なったときの響きを確かめる視点につながります。

 

和音の変化と、ドビュッシーの色彩

 

アンリ:短調から長調の和音に変わることで、音の色彩が変わります。音の出し方による違いも、この楽器でははっきり聴き取れます。音のまわりに、豊かな光輪のような響きが生まれるのです。音が突然、明るく輝き始めます。

和音の変化による違いと、弾き手が音を出す方法による違い。教授はその両方に耳を向けています。続いて取り上げるのが、ドビュッシーです。

アンリ:ドビュッシーの場合は、また違った音楽になります。

教授は複数の曲の一節を取り上げ、響きが変わる箇所、音の色彩が変化する箇所を確かめていきます。そして、その違いを作曲家の書法と結びつけます。

アンリ:ドビュッシーの書法は、それぞれ異なる色彩や効果に対応しています。

楽譜に書かれた音を鳴らすとき、そこにどのような色彩の違いがあるのか。教授の説明は、ショパンで扱った伴奏と旋律の関係から、ドビュッシーの多様な響きへと続きます。

 

何時間でも探し続けられる楽器

アンリ:このような楽器があれば、理想とする音楽を何時間でも探し続けることができます。驚くほど豊かな響きの世界が広がっているからです。まるで自由に使えるオーケストラを手に入れたかのようです。

冒頭で、ピアノを喜びとともに探求していると語ったアンリ教授。ペダルを踏んだ一音、伴奏と重なる旋律、ドビュッシーの色彩。その一つひとつを確かめることが、理想とする音楽を探す時間になっています。

レンツ:ありがとうございました。

アンリ:どういたしまして。

レンツ:最後に、ショパンのお話をたくさんしてきましたので、お好きな曲を少し演奏していただけますか。

アンリ:はい、分かりました。

最後は、ショパンの協奏曲の緩徐楽章からの演奏です。演奏後、教授は「協奏曲の緩徐楽章から少し演奏しました」と説明し、レンツ氏が感謝を伝えて今回の対話を結びます。

一音を弾いた後も、その音が伴奏とともにどう響き続けるかを聴く。次にピアノに向かうとき、いつも弾いている旋律でも、下で支える音に意識を向けてみてはいかがでしょうか。

ベヒシュタインの響きやタッチを実際に確かめたい方は、ベヒシュタイン・セントラム 東京へご相談ください。ご試弾のお問い合わせは、以下のページから承っています。

https://www.bechstein.co.jp/dealer/hibiya_centrum_tokyo

 

アンリさんが審査員長を務める「第6回ノアンフェスティバル ショパン イン ジャパン ピアノコンクール」(2027年4月本選)の予選申し込みが9月1日(火)からスタートしました。

詳細はこちらをご覧ください。
https://www.bechstein.co.jp/news/6th_nohant_festival_chopin_injapan_competition